2019 Sセメスター「学術フロンティア講義」開催のお知らせ

2019年度Sセメスター「学術フロンティア講義」が始まりました。

【授業名】

30年後の世界へ―「リベラル・アーツ」としての東アジア学を構想する

【日時】

2019年4月5日(金)〜7月12日(金)

【対象者】

東京大学教養学部前期課程学生

【授業内容】

いまから30年前、ベルリンの壁が崩壊し、第二次世界大戦後の世界秩序を支えてきた東西冷戦が終結しました。西側の自由と民主の価値が勝利することでイデオロギー対立が終了したことを称して、アメリカの政治学者フランシス・フクヤマは「歴史の終わり」だと宣言しました。それから30年。その間、コンピューターとインターネットが普及し、人々の生活はそれより以前とは一変しました。グローバリゼーションのうねりはフクヤマの予想を超えた規模で、宗教を背景にした紛争やテロリズムを喚び起こしました。インターネットは人々の自由を広げ民主を促進するとも言われましたが、その一方で人々の対立が激化しました。情報革命は新たな産業革命として世界の産業構造を大きく改変し、貧富の格差が拡大し、移民排斥情緒や狭隘なナショナリズムを助長しています。自由と民主を体現していたはずのヨーロッパ統合は頓挫し、「デモクラシーの帝国」アメリカはポピュリズム政権のもとで、自国中心の保護主義へと転換しようとしています。

この30年間で急速に世界的な影響力を持つようになったのは中国です。1980年代から始まった改革開放政策のもとで、高度な経済発展を続け、中国は世界第二の経済大国となりました。西側先進諸国の産業高度化を促すように、安価な労働力で工業生産を拡大し、世界の工場と呼ばれました。また近年では、ベンチャービジネスが活況を呈し、豊かな資金力と人材力を背景に科学技術分野でも世界の最先端を行くものが増えています。保護主義に退く欧米諸国と対照的に、中国は「一帯一路イニシアティヴ」を打ち出して、貧困や紛争に悩まされるユーラシア大陸とアフリカ大陸の「共同発展、共同繁栄」を目指すと公言しています。フランシス・フクヤマが「1989年の精神」と称えた自由と民主の価値の普遍性が揺らぎ始めたのと軌を一にするように、体制がまったく異なり、しかも世界最大の人口を擁する中国が、新たなグローバルパワーとして人類の命運を左右するまでに大きな影響を持つようになった––––この30年の変化を一言で表すなら、このように言えるのかもしれません。

では、いまから30年後、世界は、人類は、いったいどうなっているのでしょう。もし以上のようにこの30年を振り返るのが正しいのなら、わたしたちは中国のことを抜きにして、この問題を考えることはできないはずです。同時に、わたしたちはいま、第四次産業革命とも呼ばれる新たな大きな技術革新を経験しつつあります。AIやバイオテクノロジーの新しい技術は、人類そのもののかつてない進化を予示しています。わたしたちは、「人間とは何か」を根本的にとらえなおさなければならない時代をむかえているのです。

30年後の世界を、少しでも人類の幸福な繁栄と平和な世界にするために、わたしたちは、まず、わたしたち自身の地点から考え直さなければなりません。つまり、中国をうちに含む、わたしたちの生活の現場としての東アジアから、既存の学問の枠を超えて、リベラルに思考しなければなりません。そこは、西洋の生み出した近代文明と、それとは異なるオータナティヴを呈示しつつある中国文明との結節点でもあります。わたしたちは、そのような場を、自分たちが生きる現場として持っているのです。ここから始められることは、わたしたちに与えられたアドバンテージでもあり、また、わたしたちが担うべき責任であるとすら言えるかもしれません。  東アジア発の、人と世界を根本的に考えるための教養としての新しい学問、それをわたしたちは「リベラルアーツとしての東アジア学」と呼びます。駒場がこれまで世代を超えた培ってきた「知の技法」のヴァージョン2.0が、いまから始まります、30年後の世界を担うみなさんと共に。

なお、この講義は、今年度より新しく始まる東大と北京大学との「リベラルアーツとしての東アジア学」を標榜するジョイントプログラム(東アジア藝文書院、East Asian Academy for New Liberal Arts, EAA)のキックオフ企画です。

各回のタイトルと担当教員に関する以下のポスターはこちらからダウンロードしてください。