【共催イベント】「自民党政権の現在と今後」

2019年7月24日、グローバル地域研究機構と東アジア藝文書院による初の共催セミナー「自民党政権の現在と今後」が開催された。本共催セミナーは、朴喆熙(パク・チョルヒ、ソウル大学)氏が東京カレッジ特任教授として滞在されているなか、内山融(東京大学)氏とのアカデミックの枠にとどまらない、長年の友情によって実現された。この日は特に7月21日の参議院議員選挙の結果も踏まえ、「一強」と呼ばれている、安倍首相下の自民党政権について、日本政治研究の先端を担う両氏による講演と対談が行われた。

まず、パク氏による講演がなされた。パク氏は今回の参院選において投票率(47.8%)が案外に低かったと指摘した上で、その原因として、有権者にとっての選択肢があまり存在しなかった点と、政治にはもう期待しないという風潮が明らかとなっていると分析した。パク氏は、得票率の低さを見ても今回の選挙があまり人々の関心を引かなかったことは指摘しつつも、自民党研究の観点からは興味深い点を観察することができるとした。それは、自民党の派閥の力学において、宏池会が敗北したことが持つ大きな意味である。これまで自民党は、1990年以降政党間連合(特に公明党との連立)や無党派層の取り組み、そして近年右派団体との連帯を通じて長期政権を構築・維持してきた。だが、その過程で自民党の派閥の弱体化が、安倍政権下でさらに顕著になったとのことである。

続けて、来たる2019年11月には安倍内閣が憲政史上最長の政権となる見込みを踏まえたうえで、安倍政権がいかにして成立しているのか、その行方と未来はどうなるのかかについての議論がなされた。パク氏によると、安倍政権は「強い日本を取り戻す」というスローガンによって、経済面ではアベノミクス、外交・安全保障面ではかつてないほど強力な日米同盟のグローバル化(集団的自衛権行使容認等)を基軸とした精力的な政治活動を行っていると述べた。これに加えて、「誇りある美しい日本」といったナショナリズムを鼓舞し、それを政治的資源として活用できているとした。ここで特徴的であるのは、歴史問題をめぐる中国・韓国との関係の中で、日本の政治エリートがもはや「加害者意識」ではなく「被害者意識」を抱くようになっている点であることを、パク氏は指摘した。この「加害者意識」の欠如こそ、近年の日韓関係を悪化させているという。最後に、「ポスト安倍」について、もう一度自民党内の派閥の力学や野党の動き、そして外交面における課題が述べられた。

パク氏の講演を受けて、パク氏と内山氏の対談が行われた。内山氏は主に三つのテーマ-1)若者の自民党支持の傾向、2)リーダーシップの性質と政権運営の変化、3)野党の今後とその選択肢-について問いかけた。第一に、若者がなぜ自民党を支持している(今回の選挙では20・30代の比例投票率は40%を超えている)ことについては、大変不思議かつ学術的にも興味深い論点であることが両氏にとっての共通見解であることが確認された。考えられる仮説として、経済が好況(良い就職率)であることや、ネオリベラリズム的な言説の影響から「社会構造」に原因を求めるのではなく「自己責任」論に帰結する風潮が見られることが挙げられた。第二は安倍政権のイデオロギーをめぐる問いである。その右派的性質が党内の凝集性を高める一方で、イデオロギーの偏りを生じさせ、さらには外交問題を引き起こしていることが指摘された。これを踏まえて、リーダーシップの交替によって自民党のイデオロギーや政権運営は今後いかに変化するのか、という内山氏の質問がなされた。これについてパク氏は、自民党の本質は変わらないが、リーダーシップというのは本来自分のカラーを出さねばいけない性質を持っているため、変化が見られる可能性があると返答した。例えば、宏池会のリーダーに変わる場合、宏池会の「色」が出ざるを得ないとのことである。ここで、リーダーシップの重要性がうかがえる。第三に、自民党「一強」は野党の分裂に起因していることを指摘したうえで、日本政治における野党の現状と今後について両氏の見解が述べられた。両氏はまず94年度選挙制度改革(中選挙区制から小選挙区制へ)では、多くの政治学者が予想していたような「政策によって競争する二大政党制」の実現に失敗したことを指摘した。さらに、予想に反して野党の分裂が継続して見られるとのことである(この議論に関しては、政策をめぐる競争と言うより、後援会のような、組織による選挙戦略が依然として有効であることも含まれる)。しかし、パク氏は、今後国政選挙を重ねていくうちに、野党各党は統合に注力することは間違いないとも指摘した(これは政権獲得を目標とするというよりも、個々人の当選を最優先するからであるとのことである)。

質疑応答の際には聴衆から、外交問題における安倍政権の対応、日本政治における共産党と組織、経済規制をめぐる日韓関係と今後、れいわ新選組の活躍などの質問が相次ぎ、予定された時間を大幅に越えてしまうほど活発な議論が展開された。日本の国会議員らとの親密なネットワークだけでなく、政治の現場を長らく見てきたパク氏による深い洞察と分析は、日本政治や、日本と東アジアの複雑な関係を理解することを促しただけなく、内山氏との対談や聴衆との議論を含めて、全てが非常に有意義なセミナーであった。

報告者:具裕珍(EAA特任助教)