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2019.11.19

中國文化大學・東亜人文社会科学研究院 国際学会

台湾・台北市北部の美しい山中にある中国文化大学で2019年10月4〜5日に開催された国際学会「東亞人文社會科學研究的新地平線— 人物、文化、思想、海洋與經濟的交匯」に参加した。これは、日本研究者である徐興慶氏(中国文化大学学長)の主導で創立された研究機関「東亜人文社会科学研究院」で、内外から多数の研究者を招いて2日間にわたって開かれた設立記念イベントであった。

中国文化大学は日本や韓国の文化・言語の研究分野で台湾を代表する大学で、その利点を生かして人文・社会科学のさまざまな分野の研究者の交流の拠点となるべくこの研究院を設立した。今回の国際学会には日本や韓国の諸大学に加えてベトナム、中国、香港から、40名あまりの研究者が発表者や司会者として議論に加わった。文化、歴史、言語、宗教、政治、経済といった広範のトピックで、中国語、日本語、韓国語で、特に通訳は入らずに活発な議論が行われた。

私は、香港出身で東京大学駒場キャンパスで教えた経験もある林永強氏(獨協大學准教授)の呼びかけで、シンポジウム「明治思想と東アジア (明治思想與東亞)」に提題者として参加した。林氏は専門である西田幾多郎の哲学を新儒学との関係で東アジアの思想文脈に位置づける発表を行い、私は「明治思想と西洋哲学」というタイトルで、東京大学哲学科を中心とした19世紀の西洋哲学受容について報告した(現在、人文社会系研究科・哲学研究室で進行している科学研究費補助金プロジェクト[代表・鈴木泉]の成果の一部)。村上保史氏(大谷大学教授)は清澤満之の宗教哲学について報告を行い、竹花洋佑氏(大谷大学講師)は近代哲学を代表する西田幾多郎『善の研究』の最先端の研究成果を発表した。その後、提題者4名の間で意見交換が行われ、フロアからの質問を受けてセッションを終了した。東アジアの哲学を考える上で19世紀の日本が果たした役割に関心が集まっており、とりわけ、これまで良く知られてきた西田哲学より以前の重要性の認識が広まりつつある。

この国際学会には日本から、二松學舍大学、創価大学、天理大学、早稲田大学、長崎大学、弘前大学などから研究者が参加し、学術交流に興味深い場ができた。近年、共通するテーマで研究活動を行う国際的な拠点やプロジェクトも多数できているが、それらの間での有意義な情報交換と効率的な連携が大切になってくる。今回は台湾の地で日本語で存分に議論する貴重な機会を得て、東アジアの人文学の可能性を感じた。

納富信留(東京大学大学院人文社会系研究科・教授)