2020年10月4日(日)、許紀霖氏(華東師範大学)をお招きし、氏の日本語による初の単著となる『普遍的価値を求める——中国現代思想の新潮流』(法政大学出版局、2020年)の書評会を開催した。著者である許紀霖氏(華東師範大学)、監訳者である中島隆博氏(EAA院長)と王前氏(東京大学)のほか、石井剛氏(EAA副院長)をはじめ、許氏に縁を持つ諸氏が集った。評者として村田雄二郎氏(同志社大学)、星野太氏(早稲田大学)が、本書に対するコメントを寄せた。
書評会では、本書のタイトルにも示されている「普遍的価値」をめぐって、自由闊達な議論が展開された。許氏が言う「普遍的価値」には、昨今勢いを増すナショナリズム、そしてポピュリズムに対する痛烈な批判意識が込められている。しかしこれは、静的なもの、固定的なものとして理解されるべきではない。異なる価値を持つ者同士が、衝突を繰り返しながら共に練り上げ構想するもの、言い換えれば、本書巻末の対談でも触れられているように、「普遍化する」という動的なイメージによって捉えられるべきものだろう。評者によるコメント、それに対する著者からの応答ののち行われた全体討論では、忌憚なき意見が飛び交った。許氏が総括したように、このような議論を行うこと、そしてこのような議論が可能となるような場を求め続けることが、「普遍的価値を求める」ことにほかならない。
本書は法政大学出版局の「叢書ウニベルシタス」から刊行された。奇しくも、ラテン語で「普遍」を意味する「ウニベルシタス」シリーズから本書が刊行されたことの意義を、参加者誰もが深く受け止めたとともに、未完のプロジェクトである「普遍」に関与することの重要性を確認したひとときであった。
報告者:崎濱紗奈(EAA特任研究員)
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