2025年6月14日(土)14時より、第45回東アジア仏典講読会がハイブリッド形式にて開催された。今回は佐久間祐惟(東京大学助教)が発表を行なった。当日は対面で8名、オンラインで延べ19名が参加した。
佐久間は前回に引き続き、虎関師錬(1278–1346)著『正修論』の訳注を発表した。今回発表したのは、『正修論』の「質惑第七」・「救偏第八」・「契悟第九」の三つの章である。「質惑第七」は虎関師錬が修行僧の陥りやすい誤った禅理解を批判するという章、「救偏第八」章は、棒喝ばかりを重んじ経典類を用いた教化を低いものとみる禅理解を批判するという章、「契悟第九」は、禅宗における悟りとは何かを、禅宗祖師が悟りに至った経緯を紹介しながら論じるという章である。これらの章の会読により、虎関師錬の禅の特徴、とくに修証観(修行と悟りの関係性についての見解)の一端を紹介できたのではないかと考える。また『正修論』自体には中国の禅籍が数多く引かれているため、日本中世禅で用いられた禅籍の傾向や特徴を垣間見る機会にもなったと考える。
『正修論』訳注研究の発表は、昨年9月の第36回東アジア仏典講読会より継続して行っているもので、今回が通算7回目であった。途中、部分的に省略した箇所はあるものの、今回の発表で『正修論』の通読を終えることができた。
一連の発表に対しては、毎回、多くの先生方より貴重なご教示、ご助言を頂いた。とりわけ小川隆先生(駒澤大学教授)、土屋太祐先生(新潟大学准教授)、柳幹康先生(東京大学准教授)からは、原文の句読点の当否、書き下し・現代語訳の修正すべき事項、注釈として参照すべき情報に至るまで、毎度、懇切丁寧にご示教いただいた。三先生の他にも、会にご参加の諸先生方、同学諸氏より、多くのご教示を頂いた。訳注を発表させていただいたことで、ひとりで『正修論』を読んでいるだけでは決して至ることのできない読み―ひとりで読むよりはるかに正確で深く、また発表者が及んでいなかった知識と結びついた読み―を行えるようになったと感じている。一連の訳注発表を通して、まさに読書会という場の有り難さと楽しさを身にしみて感じた次第である。
本訳注研究は、2025年度内に出版予定である。頂戴した貴重なご教示を適切に反映させながら、よりよい訳注原稿とできるよう、修正作業を行っていきたい。
報告者:佐久間祐惟(東京大学大学院人文社会系研究科助教)

