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2025.10.27

【報告】第48回東アジア仏典講読会

2025年10月25日(土)14時より、第48回東アジア仏典講読会がハイブリッド形式にて開催された。今回は杉山豐氏(京都産業大学外国語学部)が発表を行なった。当日は対面で12名、オンラインで延べ15名が参加した。

杉山氏は、15〜16世紀朝鮮における仏典および禅籍の諺解について発表した。諺解とは、主として漢文の意義を朝鮮語で解釈したもので、基本的には王室やその周辺の発願により、中央機関である刊経都監で編纂・刊行された。具体的には、釈迦の一代記である『釈譜詳節』やその讃歌『月印千江之曲』をはじめ、『楞厳経』『阿弥陀経』『法華経』『金剛経』などの経典の諺解、『蒙山和尚法語略録(蒙山法語)』『禅宗永嘉集』『牧牛子修心訣』といった禅宗文献の諺解、さらに『五大真言』などの真言・陀羅尼文献の諺解など、多様な資料が紹介された。

発表では、特に『蒙山法語』および『証道歌継頌』の諺解を事例として取り上げ、漢文原文の文法理解や語義の選択に見られる解釈上の特徴を分析した。また、中国原典との比較や、日本の訓点文化との比較の可能性についても検討が行なわれた。

これまで本講読会では主に扱われてきた文献は中国および日本のものであり、東アジアのもう一つの重要な地域である朝鮮は殆ど扱われてこなかった。そのようななか今回、朝鮮仏教の典籍が紹介され、参加者に新鮮な刺激を与えた。朝鮮仏教における経典理解は、中国・日本仏教の双方の影響を見て取れる一方で、そのいずれとも異なる独自の展開を示す点でたいへん興味深い。今後の更なる研究が期待される分野である。

発表の後、参加者との間で活発な質疑応答が行なわれた。その内容は、当時の朝鮮で重視されていた禅宗文献、『無門関』や『臨済録』などの禅宗文献の流通状況、『景徳伝灯録』とともに禅宗の僧科試験範囲であった『禅門拈頌集』に関する疑問、韓国禅における看話禅の修行法など、多岐にわたるものであった。

報告者は仏教研究を志す韓国出身の博士生であり、学部時代には毎夏、韓国各地の寺院に滞在していた。そのため、現代の韓国仏教について一定の理解を持っていると自負している。しかしながら、日本に来てから韓国仏教の特徴について質問されるたびに、明確な答えを出すのは難しいと感じていた。その理由のひとつとして、現在の韓国の寺院において見られる文化・伝統が、韓国固有のものであるのか、それとも日本統治時代に日本仏教の影響を受けたものかの区別が困難であることが挙げられる。杉山氏の発表から学んだなかで特に印象深かったのが、日本の影響を受ける前の時代の韓国仏教の姿を垣間見られたことである。近代日本仏教が韓国仏教に与えた影響を今後の研究課題としている報告者にとって、大きな啓発を受ける貴重な機会となった。

 

報告者:宋東奎(EAAリサーチ・アシスタント)