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2025.06.26

【報告】2025 Sセメスター 第10回学術フロンティア講義

 

2025年620日(金)、EAA主催の学術フロンティア講義「30年後の世界へ――変わる教養、変える教養」が駒場キャンパス18号館ホールで開催された。第10回は総合文化研究科の梶谷真司氏をお招きして、「学問の開放性と横断性」と題して講義を行った。

梶谷氏は、大学における教養教育の意義および学際的(interdisciplinary)・超学際的(transdisciplinary)な研究実践の可能性と課題について、自身の実践例を交えながら論じた。一見すると、教養は人格や道徳心と密接に結びついているように思われがちであるが、梶谷氏は必ずしもそうではないと述べ、「教養とは、単なる個人の知識の蓄積にとどまらず、学問分野の枠を超えて社会と交差する場を形成する過程において発現するものである」と主張した。梶谷氏は、近年の学際的研究の多くが各専門分野の枠内にとどまりがちであり、制度的・人間関係的・心理的側面においても閉鎖的であると批判した。その上で、研究者は専門的知見を基盤としつつ、地域社会や企業との連携を積極的に促進し、社会との接点を能動的に構築していく必要があると強調した。さらに、社会と関わる研究実践においては、協力者や地域住民に対する利益の還元、および信頼関係の構築が不可欠であると指摘した。

一つの学問領域を深く掘り下げることが、研究者としてあるべき姿であると一般に考えられがちである。しかし、専門家として関心領域を徹底的に探究することと、学問的・社会的に閉鎖的な態度を取ることとは、必ずしもセットで生じるものではない。研究者が専門性を維持しつつも、他分野や社会との接続を図ることは十分に可能なのである。その例として、梶谷氏は京都大学総合地球環境学研究所におけるオープンハウスの経験や、双葉町でのフィールド活動の経験を語った。そして、専門家としての立場を一旦外し、「ただの人」として地域住民と共に作業や活動に参加することの重要性を強調した。成果のみに焦点を当てた搾取的な関わり方を避け、研究者や学者といった肩書に固執するのではなく、関係者や環境に対して真摯に向き合い、共に行動する姿勢こそが重要である。梶谷氏が提示したこのような姿勢は、参加した学生たちに強い感銘を与えた。学生たちは、これからの大学教育のあり方や、自らがアカデミアの閉鎖性をいかにして乗り越え得るかについて、活発な議論を交わした。

報告・写真:劉仕豪(EAAリサーチ・アシスタント)

 

リアクション・ペーパーからの抜粋
(1)「研究者は専門性だけでなく社会性も育成されるべきか?また、社会性をどのように磨いていくべきか?」という問を立てました。
多くの研究者は「専門家」としての立場で語られることが多いが、実際にはその「専門性」が社会から理解・承認されていない場面も多く、自分が「専門家」であるという認識は、自分たちの内部だけで通用しているに過ぎずと先生はおっしゃっていた。そのため社会との信頼関係を築き、研究の背景や価値を伝えるコミュニケーション能力が今後ますます必要になると私は思いました。
加えて、学際の実践においては「とりあえず仲良くなる」ということが大事だとおっしゃられており、アカデミアの世界で生き残っていくためにも人間関係の構築は非常に重要となることを再認識しました。
今回の講演を踏まえて、専門性と社会性は二項対立ではなくむしろ両立してこそ研究の力は社会に届くので、これからの研究者には、専門性に加えて意識的に社会性を育てていくことが不可欠であると私は思いました。
そして高い社会性を育てるためには私は東京大学の同級生とより交流を深めていこうと思いました。
– 前期課程(教養学部 理科二類・2年)

(2)私が東大の受験勉強で最も大切にしていたのは、楽しむことを忘れないことでした。学ぶことの楽しさをさらに求めて東大に入り、充実した毎日を送ることができていますが、授業の忙しさや課題の多さに行き詰まることが何度かあります。周りのレベルも高いので自分も完璧にやらないと、とつい思い詰めてしまいます。初めて書く期末レポートも三つほど迫ってきて、文献を探すこと、論文を読むこと、適切に引用すること、論理的に書くことなどの難しさが大きな壁となり、不安な気持ちでいっぱいでした。これまでのように学ぶことを思い切り楽しめていない自分に、心のどこかでは気づいていました。また、将来の進路についても、今まで「やりたい!」と思っていた仕事では東大で学んだことを活かせないのではないか、別の仕事を考えた方が良いのではないかと思い始めていたところでした。
しかし梶谷先生のお話を聞いていくうちに、じわじわと心が温まって前向きな気持ちになっていくのを感じました。アカデミアな学びだけではなく、自分のやりたいことを押さえないで勇気を持ってやる、「ただ学ぶ喜び」を大切にする、という言葉は心に深く響いて、エネルギーが湧いてきました。課題が気になって諦めていたイベントに申し込むことができたし、「学ぶことが楽しい」とプレッシャーなく心から思える自分の気持ちを思い出して、試験やレポートに対してもワクワクして取り組める未来が見えました。また、卒業後も「東大出身です」ではなくて、一人の人として、周りの人と共に同じことをやる中で、自分が学んできたことは活かせる時に活かせば良いのだと思えて肩の荷が降りました。梶谷先生のお話を聞けて本当に良かったです。
– 前期課程(教養学部・文科三類・1年)