ブログ
2022.11.15

【報告】太田光海氏講演会「変容する森と、創発としての真実—現代高地アマゾン熱帯雨林における身体知と絡まり合う自己—」

People

2022年10月23日(日)15時からKOMCEE East K011にて太田光海氏講演会「変容する森と、創発としての真実現代高地アマゾン熱帯雨林における身体知と絡まり合う自己が行われた。太田氏は、現在全国各地で劇場公開されている映画『カナルタ—螺旋状の夢』で知られる映像作家であるが、2016年8月から2017年10月までエクアドルとペルーにまたがるアマゾン熱帯雨林にてフィールドワークを行い、マンチェスター大学グラナダ映像人類学センターで博士号を取得している人類学者である(博士論文Cultivating the Real at the Edge of the Forest: A Ciné-Ethnography of Embodied Knowledges and Entangled Selves among the Shuar and Wampis in Northwest Amazonia(2019)の全文はこちらで公開されているので参照されたい)。

エクアドルから帰国したばかりの太田氏は、フレデリック・バースのEthnic Groups and Boundaries、ジョージ・マーカスやマーク・アンソニー・ファルゾンらのマルチサイトリサーチの手法を紹介しつつ、それらを踏まえながら、場所や国に縛られないかたちで、身体性を意識するかたちで、家畜のために開拓されてきた森に棲まって観察してきたことを述べた。マックス・グラックマンのいう「社会的状況(social situation)」を読み解きながら、凄まじい速度で消失しつつある熱帯雨林の現実を眼差し、それに相反して永遠の楽園というイメージから逃れることがいかに困難であるのかを指摘し、そうしたなかでどのようにアマゾンと先住民たちの変化する「差異」を動的プロセスとして捉えることが必要なのかが説かれた。

アマゾンの一風景(太田氏撮影)

エドゥアルド・コーンの『森は考える』といった先行研究を紹介しつつ、最後に太田氏が強調されたのは、アマゾンは観察可能なプレート上におかれているかのように思われるが、あくまでも現実はそのプレートじたいがいつ溶解してもおかしくない不安定なものであり、そのようなプレート上でもがいている動植物がいる、という点を受け止めなければならないということであった。それは、原生林や野生動物の存在そのものがあるのか、といった足元から現実にもとづいて思考する必要性だろう。たとえば人間とジャガーとの関係を前提とするまえに、本当にジャガーはいるのか、本当に森は一面に広がっているのかと問うてみるように。

これにコメンテーターとして応答したのは橋爪太作氏(早稲田大学)である。社会学を経て人類学に転向した経歴をもつ橋爪氏は、メラネシアのソロモン諸島をフィールドとし、熱帯雨林の大規模伐採や人口増加の進む同地で人々がどう生きているのか、民族誌記述にもとづいて博士論文を執筆した学者である。興味深かったのは、急速に居住地の環境が変化する地域という共通項はもちろん、太田氏がアマゾンで目撃したように、ソロモン諸島においても、もっと危険な領域や自分たちよりも真に未開の原住民的な存在がいるのだと当の人々が述べていたといった酷似した体験が指摘された点である。橋爪氏は太田氏の用いた「創発する真実」といった言葉から「真理」あるいは全体性の問題を取り上げ、現地の人々にとってのそれが確固たる現実ではなく、むしろ仮固定的なものであり、つねに書き換えられてゆく、個別に創られてゆくものであるという感覚があり、シュアールの人たちにも同じものがあるのではないか、と指摘した。それは、他人が言ったから正しいのではなく自分自身で身体を通じて証明しなければならない、そのような真実性のあり方と個人主義のありよう、知の結ばれ方である(Cf. 後藤健志「アマゾニア的園芸の蔓状ネットワーク」(2018)。

背景にある議論が膨大であったために延長しても時間が足りなかったのが惜しまれるが——事後的な補足をすると、『カナルタ』でも主題となっていた「ヴィジョン」とは、シュアール族がアヤワスカといった覚醒植物によって変性意識状態となりみるある種の「夢」であり、彼らはそうした言語化不可能な体験によって自己を確立してゆくとされ、太田氏はスティーヴン・ルベンスタインを先行研究としてこの議論を刷新している——、約50名が訪れた会場からの質疑応答はマンチェスターの映像人類学研究の現況や日本と海外の人類学研究の違いも問われる密度の高いものだった。映像と人類学、さらには映像と学問の交差する新しい地平をめぐって言葉を交わす機会は、いまこそ強く望まれているだろう。貴重な研究成果にもとづき講演をくださった太田氏と応答してくださった橋爪氏に心から感謝したい。

報告・写真:髙山花子(EAA特任助教)