2025年1月26日(日)15:00~17:30、UIAシンポジウム「アジア学のフロンティア2」が、東洋文化研究所3階大会議室にて開催された。古代から現代に至る中国史各時代を対象に、新たな視点から分析を行っている歴史学・思想研究の専門家3名が、それぞれの最新の研究成果を発表した。
最初に、司会の田中有紀氏が、今回のシンポジウムの趣旨について説明した。歴史学を軸に「アジア学」を再考することを目的とし、様々な時代を専門とする研究者を招いて議論を深める場であると述べた。
まず石谷慎氏(京都府立大学)が「史実と事実のはざま:東周秦漢という時代を考える」というテーマについて話した。東周秦漢時代の時期区分について、考古学では「東周(春秋戦国)」と「秦漢」に分けるのが一般的であり、文献史学では「戦国秦漢」という区分も用いられる。銅鏡などの考古資料の編年を通じて、戦国時代の文化要素が前漢時代まで残るという事実があり、文化の移行が必ずしも歴史区分と一致しないことを指摘した。
続いて、田中有紀氏(東京大学)は「中国科学技術史における江永の礼学:朱子学から考証学へ」というタイトルで発表した。田中氏は清代の江永の議論を通じ、礼学において音楽・天文暦法などの技術がどのような役割を有するかを考察した。江永は、朱子学の枠組みを継承しつつも、考証学的手法を用いて礼学を発展させた。彼の研究領域は、天文暦法、数学、音律学、易学、音韻学、地理学など多岐にわたり、特に「道問学」(具体的な学問の探究)を重視した点が特徴的である。江永は、朱子学の「尊徳性」と「道問学」の関係を再解釈し、技術や制度の考察を通じて、礼学の体系の中に組み込み、戴震など後代の考証学者に影響を与えた。それによって、中国と西洋の学術を深める中で新たな聖人像を構築した。
次に、久保茉莉子氏(埼玉大学)は「中国の近代法をどう捉えるか:清末民国期法制史の研究動向」というタイトルで発表した。清末以降、西洋近代法の知識が条約締結や国際法の翻訳を通じて流入し、近代の各政権による法典編纂や司法制度の整備が進められたことにおいて、伝統的な道徳観と西洋近代法観念との間で議論が生じ、エリート層による立法と民間での実行、司法と行政の未分離や財源・人材不足などの課題が注目されていると指摘した。先行研究の学術史を整理しながら、新しい研究動向を紹介した。
最後の全体討論では、中島隆博氏は、三つの発表の共通点は「変化」を扱っていると指摘した上で、このような「変化」において中立的透明的な立場を取ることは難しいと考えられるが、どうのように注意を払っているのかについて、三人の発表者に質問した。発表者はそれに応答する形で、自分の研究課題についてさらに思索を深めていた。
報告者:呉雨桐(EAAリサーチ・アシスタント)

