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2025.06.30

【報告】ホワイトキューブに寄生せよ──空白の展示室から作品を出力する方法

 2025620日(金)、奥村雄樹氏の講演会「ホワイトキューブに寄生せよ──空白の展示室から作品を出力する方法」がEAAの主催でオンラインにて開催された。本会では、星野太氏(東京大学)が司会を務めた。

 講演は、「素晴らしい作品とは何か」という問いから始まった。この問いに対する奥村氏の答えの中心は、「『表現』よりも『出力』」という点にあるように思われる。近代において作品とは、作者の内面の表現であると考えられてきた。しかし、作品の制作プロセスに作者の意図が入りこむことにより、絵の具や筆、キャンバス、絵を描くという身体の振る舞いに本来的に備わっている無限の可能性は失われてしまう。そのような作者の自己表現よりも、作者の外部にあるこの世界自体の豊かさを出力した作品こそがすばらしい作品であると奥村氏は語った。このように作品を作者のエゴイスティックなコントロールから解放し、偶然性へと開くことを可能にするのが、コンセプチュアル・アートであるという。素朴で直感的な着想をもとに動作の指示を作り、そのルール化した動作をひたすら実行することによって作品を作るコンセプチュアル・アートでは、作り手の外部の要素が偶発的に具現化される。作者の外部にある、この世界の豊かで奇跡的なアンサンブルを、高い純度で抽出して出力することができるのである。

 続いて、奥村氏はウィーンのセセッション(分離派会館)で開催した個展の様子を紹介した。今回の個展では、事前に作品を制作してから展示室に運びこむのではなく、展覧会が開催される真っ白な空間、すなわちホワイトキューブで、現場で見つかる素材と道具のみを使って作品を作るという手法がとられた。この点について、ホワイトキューブは世界から切り離された空間として理念化されているが、実際は世界の一部なのだから、コンセプチュアルな手順に則ることで、その空間の豊かさを発現させることができると考えるためだと奥村氏は述べた。同個展では、奥村氏自身が制作した映像作品のほか、奥村氏によるワークショップを通じて、セセッションで働く職員たち自身が、いつも仕事中に気になっていたことから着想し制作した様々な作品が展示された。

 講演後には、星野氏からのコメントがあった。星野氏は奥村氏の作品の作り方について、これまでは星野氏も関心を持っている「寄生」というタームによって捉えていたが、今回講演の中で奥村氏が述べた「世界の発現」という言葉が非常に腑に落ちたと語った。最後のQ&Aセッションでは、コンセプチュアル・アートと参加型アートとの違いや、ホワイトキューブの特性などをめぐって、活発な議論が展開された。

報告・写真:新本果(EAA リサーチ・アシスタント)