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2023.03.30

【報告】未来哲学研究所第6回シンポジウム「国家と宗教」

2023年3月29日(水)15時より、駒場キャンパス101号館セミナー室にて、未来哲学研究所第6回シンポジウム「国家と宗教」が開催された。近代国家形成時期の諸地域に焦点を当てることによって、世界中で宗教が政治、国家と強く結びついている現代を検討する趣旨であった。

最初の発表者の伊達聖伸氏(東京大学)は、「アナトール・フランスにおける二つのライシテの相剋」と題し、コンブ型とブリアン型の2つのライシテのあいだでじつは葛藤していたアナトール・フランスの記述をひもとき、共和国における信仰の自由、国家主権と教皇庁の緊張関係について、単純化できない思考があったことを提示した。つづいて細川瑠璃氏(東京大学)は「20世紀初頭のロシア宗教思想における国家観」と題し、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』を導入に、国家と宗教が統合されるべきであるというロシア宗教思想の傾向を指摘したうえで、フロレンスキイによる神権的君主制、カルサーディンによる教会的国家建設の夢想を紹介し、全一=ソボールノスチの原理の性格をしめした。それから保坂俊司氏(中央大学)は「インドにおける世俗主義としての共生思想」と題し、そもそもとしてなぜ近代ヨーロッパで宗教と政治を分離するという議論そのものが生まれ制度化され世界に敷衍していったのかという問いから、そうではないインドにおける非一元的な個物と真実をめぐる思想、ヒンドゥー教、イスラム教、仏教の交錯する現実の共生のありようを俯瞰した。最後に石井剛氏(東京大学)は「宗教による近代化?──中国近代転換期における宗教との邂逅について考える」と題し、近代化してゆくプロセスで国家と宗教の両方を求めていった中国にかんして、具体的に康有為と梁啓超の思想をたどり、国家独立のためには迷信ではなく正信が必要とされた議論を紹介した。

4人の発表後、休憩が挟まれ、司会者の末木文美士氏(東京大学名誉教授)からのそれぞれへの質問を皮切りとして、ディスカッションが行われた。話題は多岐に渡り、プロテスタントや東方正教、民族国家、イギリスの政教分離、少数民族への弾圧、個人主義の台頭といったテーマについて言葉が交わされた。最後に中島隆博氏(東京大学)が述べたように、世俗化という言葉も時代によって捉え方が異なり概念じたいが変容してゆくこと、21世紀以降の脱世俗化の傾向が単なる宗教復興ではないということ、だとすればどういう世俗が批判されているのか、という今日的な問いに戻ってゆく濃密な時間だった。今回のシンポジウムの記録は、機関紙『未来哲学』に掲載予定とうかがっているので楽しみに待ちたい。

報告・写真:髙山花子(EAA特任助教)