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2021.09.10

【報告】連続講義「東亜経典与世界漢学」

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香港教育大学東亜古典学研修会主催の連続講義「東亜経典与世界漢学」に東京大学東アジア藝文書院(EAA)が共催者として参加し、全5回の講義のうち最終日の2021825日(水)に柳幹康が登壇し、「五代呉越国永明延寿『宗鏡録』及其日韓流布」という題目で講演した。

 

 

講演ではまず、五代十国時代を境として中国社会が大きく変化するという所謂唐宋変革論に触れ、中国仏教もその前後で姿を大きく変えること――唐代以前は国家から一定の距離を保ち、さまざまな立場が並存していたのに対し、宋代以後は国家の枠組みのなかに組み込まれるとともに、禅を中心に諸宗融合の道を辿ること――を紹介した。その後、永明延寿の『宗鏡録』が禅の立場から従来の仏教の思想・実践を統合する書物であったこと、それが後に中国のみならず朝鮮・日本の仏教にも大きな影響を及ぼしたこと、ただしその受容のされ方は地域・時代によって大きく異なっており、そこからそれぞれ異なる道を歩んだ東アジア各地の仏教の様子が見えてくることなどを話した。

 

講演の後、出席者から多くの質問が寄せられ、活発な議論が為された。質問は、延寿が自身の思想の核心を示すのに用いた「頓」という語が何を意味するのか、延寿が提示する各種実践と人々の相異なる機根(能力)がどう関係するのかという教理的な問題から、古典を文献学的に読解することと修行の場で修養を積むことの関係をどう理解すべきかという実践的な問題まで多岐に及び、当日司会を務めてくださった商海鋒氏(香港教育大学文学及文化学系助理教授)も議論に加わり、長時間におよぶ意見交換が為された。

 

東アジア全域に広まった仏教、その各地で異なる受容のされ方をした『宗鏡録』をめぐり、異なる学問的背景を有する複数の研究者が一緒に議論することで、東アジアにおける知のあり方について認識を深めることができたと考える。また今回の共催は好評であり、来年度以降も引き続き同様の形態で行なう予定である。

 

報告者:柳幹康(東洋文化研究所)