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2025.12.15

【報告】第4回 鶴岡国際古琴音楽祭(2025):東皐心越禅師没後330年記念「鶴蓮琴響」

2025年11月1日から2日にかけて、山形県鶴岡市において第4回鶴岡国際古琴音楽祭が開催された。本音楽祭は「庄内の歴史と文芸を未来へつなぐ」ことを理念に掲げ、日本・中国・台湾・シンガポールから演奏家・研究者を迎えて行われた国際的な文化交流事業である。 

11月1日午前、庄内藩の藩校であった致道館にて開幕式が行われた。『論語』などの経典が、まず保育園の園児によって朗唱され、その後、古琴の演奏家も様々なスタイルで朗唱した。幅広い世代によって朗唱される経典と、伝統楽器との共鳴が生み出す空間は、東アジアに継承されてきた、学問と芸術文化の奥深いつながりを可視化するものであった。

 

 

続く午後の講演会「文人の思想」では、田中有紀(東京大学)および山澤昭彦氏(酒井家庄内入部400年七弦琴復興プロジェクト代表)がそれぞれ講演を行った。 田中は、中国・魏の思想家である嵆康の「琴賦」および「声無哀楽論」を中心に、「中和」という概念を軸として、音楽が人間および万物に本来備わる性質を引き出し、拡張する力として機能することを論じた。山澤氏は、近世日本における文人文化の具体的歴史を紹介し、とりわけ庄内藩における、金峯山空賢院を中心とした、儒学と琴楽を中心とする文芸ネットワークを詳細に論じた。

 

 

午後以降の公演「致道之音」「秋之音」では、「南風歌」「関山月」「流水」「平沙落雁」など、琴楽を代表する曲目が演奏された。

そして夜には鶴岡アートフォーラムにて、うつほ物語を題材とした音楽劇「吟楽琴『南風』:宇津保物語に描かれる古琴」が上演された。本公演は今年2月に行われたクアラルンプール公演、3月に行われた東京公演に続き、3回目となる。今回は演奏にピアノと笙も加わり、語りは歌舞伎役者の中村橋吾氏が引き続き務めたほか、田中も女性役の語りと吟詠を務めた。

 

 

翌11月2日には、金峯神社での「瘞琴碑」巡礼と奉納演奏が行われた。「瘞琴碑」は、庄内藩の古琴の名手であり空賢院とも縁のある相良儀一の愛用した琴がうずめられた場所に立てられた碑である。金峯神社を取り囲む清らかな森林の中で、この碑の前で、代わる代わる行われた奉納演奏は、江戸期文人文化と現代の演奏実践とが直接的につながる瞬間となった。

 

 

2日の夜には荘内神社にて「十三夜奉納公演」が行われ、東アジアの琴楽を代表する演奏家による奉納演奏が行われた。

 

致道館を中心に本音楽祭が開催された意義は、単なる会場提供にとどまらず、近世庄内における学問・礼楽実践の歴史的記憶そのものを現代に蘇らせ、東アジアの人々で共有したことである。「学」と「芸」が結びついていた庄内藩校という空間において、古琴・吟誦・講演が再び重ねられたことは、東アジアにおける学問と芸術の奥深い統合を現代に呼び戻す実践でもあった。

 

報告:田中有紀(東洋文化研究所)