2025年12月15日(月)、駒場キャンパス101号館セミナー室にて、第8回「小国」論セミナーが、東アジア藝文書院の主催、上廣倫理財団の協力のもと開催され、牟禮拓朗氏(国際宗教研究所宗教情報リサーチセンター研究員)が、「チュニジアにおける民主主義政治の衰退、そして『新しい権威主義』の萌芽について」と題して報告を行った。本会は、伊達聖伸氏(東京大学)が司会を務めた。本報告は、「アラブの春」以降のチュニジアの民主政治(2011-2019年)と、近年のカイス・サイード大統領による「新しい権威主義」政治(2019年-)を考察し、アラブ・イスラーム世界における民主主義を再考しようとするものである。

牟禮氏は、「アラブの春」以後、アラブ諸国の中で、チュニジアのみが民主主義政治を「維持」することができた背景として、イスラーム主義政党と世俗主義政党による連合政治に注目した。この連立政権が実現した背景には、民主化するとイスラーム主義系政党へと票が集中しがちなアラブ諸国の中で、チュニジアでは女性票が世俗主義政党へ流れたことでイスラーム主義勢力と世俗主義勢力間のパワーバランスが比較的均衡したことがあるという。チュニジアでは、初代大統領ブルギバの時代に、女性の政治・社会進出が積極的に進められた。また、主要なイスラーム主義政党であるエンナハダのイデオロギー的穏健化も要因の一つとし、そこには権威主義体制期に行われた労働組織や人権団体、イスラーム主義組織に対する諸政策が関わっていると述べ、独裁政権が行った政策とその後民主主義政治のつながりについて説明された。

しかし、2019年にカイス・サイードが大統領に就任して以降、チュニジアの「⺠主主義政治」は衰退し、権威主義化が進んでいる。これは、エジプトなど「アラブの春」で民主化した他の国々と同様に、旧体制への回帰として見られることも多い。しかし、牟禮氏はこれを「新しい権威主義」として捉える必要があると指摘した。エジプトなどとの大きな違いは、サイードが軍や有力家系の出身といった明確な後ろ盾を持たず、民主的な選挙を通じて選出されたという点である。またサイードは、憲法改正や選挙法の改正、選挙管理委員会への人事介入といった法的手法によって権威主義化したと整理した。この背景には、革命後の10年にわたる⺠主主義政治を経て、民主主義政治に対する国民の諦めがあることも指摘された。その上で牟禮氏は、現在のサイード体制は、民主主義政治に対する国民の諦観を基底とした権威主義的ポピュリズムと見るのがふさわしいと強調した。現在の社会状況・国⺠意識が体制打倒に向かいづらく、それによって維持されているサイード体制は、「アラブの春」当時の旧体制派の権威主義とは根本的に異なる。現在のチュニジアは、サイード体制が打倒されたとしても、次に誰が統治をするのかというジレンマを抱えているという。
続く質疑応答では、フロアから既存のチュニジア研究に対する見方や、民主化の「成功」の定義、チュニジアと隣国リビア・アルジェリアとの関係、国民の「諦観」の中身などについて質問が上がり、活発な議論が交わされた。
報告:新本果(EAAリサーチ・アシスタント)
写真:劉仕豪(EAAリサーチ・アシスタント)