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2023.02.21

【報告】2022年度第5回「部屋と空間プロジェクト」研究会

2022年12月22日午前10時より第5回「部屋と空間研究プロジェクト」研究会が行われた。東京大学東アジア東アジア藝文書院 (EAA)の汪牧耘氏が「隠喩としての建築——『中国の都市・建築と日本:「主体的受容」の近代史』のブックレビュー」と題して発表を行った。

 

 

今回、汪氏は自らのフィールドワークから得た「インフラ整備=空間の再構築を通じた近代性の輸出」という経験から、「部屋と空間」を考察することを試みた。建築に秘められたこのような近代性への関心から、中国近代建築形成の歴史的過程を理解する上で示唆に富む『中国の都市・建築と日本』(徐蘇斌、東京大学出版会、2009年)を選んだという。

本書は、既存の建築史研究と史料をもとに、20世紀初頭の都市・建築をめぐる日中の交渉をひもとき、中国という主体の変遷を描き出した。古代中国が日本建築に与えた影響はよく知られているのに対して、中国の近代空間に対する日本の影響の系譜について言及した研究はほとんどない。そこで、本書では、20世紀における中国の建築や都市がどのように日本の影響を受けてきたかを検討した。本書は具体的に6つの章を通じてそのような過程を探った。第1章から第3章では清朝末期のいわば「建築家不在の時代」の学科の設立、鉄道建設と勧業会などの空間の形成に焦点を当て、第4章から第6章では中華民国と中華人民共和国初期における特定の建築家や研究者(柳世英、劉敦楨、趙東日)の個人の運命と国家建設の交錯を浮き彫りにした。その結果、中国の近代建築がどのように様々な相互作用の中で変化し、建築がいかに国家にとって不可欠な自己表象となったかを明らかにした。著者は、外国の影響(知識、技術、専門家、教育制度など)に対する「受容」と「反受容」の実践が、近代中国の都市・建築、さらに中国という主体を形作ったと強調した。なかでも、国家の存続と主権の問題が、当時の中国の自己認識や他国との関係に大きく影響したことから、「ナショナリズム」はこうした実践を理解する上で最も重要だと指摘した。

ディスカッションの部分では、二つのトピックが提起された。第一は、「感情・創造・主体性」の関連についてである。本書でも触れられているように、空間の創造には常に別の「理想的な空間」への欲求がつきまとう。百年前の中国において、新しい空間を生み出そうとする最大の動機は中国を繁栄させ、外敵に対抗できる力をつけることだった。このような動機は、間違いなく中国という主体形成の感情的な源泉となっている。こうした歴史に比べ、現在の私たちが直面している問題は、大学(もっと言えば「書院」という空間)の創出について考えた時、その主体は誰であるべきか、またこうした創出を支えうる感情的な源泉とは何か、ということであろう。第二は、「空間の物質性」についてである。近代建築・都市の(再)構築は、常に資金、技術や人的資源の投入があって初めて可能になる。一方では、外部物質なしに独立した空間を作ることは困難であり、他方では、外部物質は特定の部屋と空間の自律性を大きく制限することがある。外部物質と空間の親和性ないし緊張関係を超える必要性と機会の所在について、さらなる議論が不可避だと考えられる。

 

 

報告者:汪牧耘 (EAA特任研究員)