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2023.10.10

【報告】第14回 藝文学研究会

2023104日、ハイブリッド形式(東洋文化研究所/Zoom)にて第14回藝文学研究会が開催された。本ブログの報告者・崎濱紗奈(EAA特任助教)が「人はいかなる時に「ジンブン」を欲するか——人文学の実践的価値を問う」というタイトルで発表を行った。

発表では、通常の学術発表という枠を超えて、アカデミアに属する者もそうでない者も、それぞれの立場から「人文学」と呼ばれる営みの意義についてディスカッションするための話題提供を行うことを心がけた。「金にならない」「役に立たない」「非実用的だ」としばしば非難される人文学を、現在的な文脈において意義づけ直すための出発点を、参加者皆と共有したかったからである。当日は、潮田洋一郎氏(EAA名誉フェロー)とそのご友人2名にも対面でご参加頂き、ディスカッションにも加わって頂いた。

役に立たないからこそ役に立つのだ(「無用の用」)というレトリックで、昨今の人文学不要論に対抗しようとするのではない形で、EAAはどのように人文学の魅力を発信すべきだろうか。本発表では、人文学的思考が持つ特性として、複雑に絡み合った問題群を一つずつ解きほぐし記述することに長けている(発表では「思考プロセスの精度を上げる」と表現した)、という点を指摘した。「人新世(Anthropocene」と呼び習わされているように、現在の人類社会は、人類自身によって引き起こされた諸課題に起因する様々な危機に際している。気候変動や生物多様性の喪失、COVID-19のようなパンデミックなど、その内実は様々であるが、近代以降、人間中心主義的な発展を追い求めた結果出来した複数の危機によって、人類は自らを苦しめている。

発表では、報告者の研究領域に引きつけて、「沖縄学」と総称される、おそらく多くの人にとっては聞きなれない学問領域の成り立ちを、話の入り口とした。「沖縄学」とは、「沖縄」と呼ばれる場所が遭遇してきた様々な危機を思考し、記述するための方法として発展してきた領域であり、歴史学/文学/人類学/言語学/経済学/政治学といったように方法論(Discipline)をあらかじめ限定しないのが、その最大の特徴である。なぜなら、いずれかの方法論に限定してしまうと、「沖縄」が遭遇する危機の総体を捉えることが不可能になってしまうからだ。「基地問題」「貧困問題」といったように、「◯◯問題」というカテゴリの中に押し込めて「沖縄」を理解しようとすると、問題の本質をたちどころに見失ってしまう。全ての問題は独立して存在しているのではなく、互いが絡み合いながら、ネットワークとして私たちを取り囲んでいるのだ。だからこそ沖縄では今でも「ジンブン」としての「沖縄学」が必要とされ続けている。「ジンブン」とは、「人文」「存分」「銭分」など、その由来には諸説あるが、人が生きていく上で必要となる智慧そのものを指し示す沖縄の言葉(ウチナーグチ)である。

知の総体としての「ジンブン」が求められているのは、何も「沖縄」に限ったことではなく、現在私たちが遭遇しているあらゆる「危機」に通じて言えることだ。全てが何かの原因であり結果でもある、というような、因果関係がもはや単純な形では捉えられない、入り組んだ関係性の中に私たちは埋め込まれている。確かに人文学は、単純明快な答え(問題に対するわかりやすい処方箋や、よく効く薬)を提供することには向いていない。だが、問題の在処や因果関係が自明ではなく、すべてがこんがらがった現状において、各々が“どのように”こんがらがっているのかを言語化し、私たちの前に“見える”状態にしてくれるのが、人文学の本分である。

この本分を発揮させるには、特定の領域における特定の専門家にとってのみ意味が理解されるような研究だけに邁進するのではなく、人文学に携わるもの自身が、自らを危機に遭遇している当事者として捉えた上で、人文学が持つ効力について発信するべきだろう。「東アジアからのリベラルアーツ」を発信することを自らの使命として掲げるEAA、そして、「総合学藝知」の創出を目指すUIAに集う人々が社会的に担う責任は、まずは自らの立つ足元を、隣に立つ人(さらに言えば「人」以外の「モノ」たち)とともに見つめ直すことから、自ずと明らかになるだろう。

報告者:崎濱紗奈(EAA特任助教)