2025年10月24日から27日にかけて、韓国・江原特別自治道において、「韓国・中国・日本の朱子学と栗谷学」国際学術研討会及び「国際儒学論壇:朱子学の温故知新」が開催された。本会議は、3回目の「韓・中・日朱子学国際学術研討会」であり、韓国・中国・日本の中堅から若手の研究者が中心となり、毎年企画しているものである。韓国朱子学会・清華大学人文学院・東京大学東アジア藝文書院による主催、栗谷学振興院、韓中日哲学会、新安朱熹大会による共催である。
10月25日に栗谷国学振興院で行われた「韓国・中国・日本の朱子学と栗谷学」国際学術研討会では、東アジアの朱子学および朝鮮儒学を代表する李栗谷(1536–1584)の思想を軸に、東アジア儒学の学術的展開とその現代的意義を多角的に検討した。栗谷国学振興院は、江原道に生まれた李栗谷に関する資料を収集するほか、儒学に関する国際会議を積極的に開催し、地域の人々にも様々に国学に触れる機会を提供する場となっている。本研討会には朱子学・朝鮮朱子学・栗谷学研究の第一線で活躍する研究者に加え、大学院生も多数登壇した。EAAからは洪信慧(東京大学大学院)も「大橋訥庵の『英雄豪傑』論」として発表を行った。午前の開幕式に続き、基調講演では李承煥教授(高麗大学)が「聖学の時代を超えた意義」をテーマに、李退渓・李栗谷が論じた聖人観の現代的な意義が提示した。その後のセッションでは、朱子の経学解釈における方法論、朝鮮朱子学の受容と再編、文献学・思想史・比較哲学の視点からの朱子研究などが取り上げられ、朱子学研究の理論的精緻化と国際的な比較が進められた。午後の部では、修養論や政治思想を中心に議論が展開され、朱子学が持つ規範理論としての側面と、実践的思想としての側面が論じられた。とりわけ、韓国の研究者と、最新の朱子学研究について交流の場が持てたこと、朱熹の著作の各国における翻訳の状況について情報交換ができたこと、さらに博士課程の学生たちにとってお互いの研究を知る機会となったことは、報告者にとっても非常に有意義であった。

栗谷国学振興院での博士課程生フォーラム
10月26日はまず、栗谷国学振興院にて行われた李栗谷の祭祀に参加した。本シンポジウムには、報告者も含め、東アジアの礼楽研究を進めている者も数多く参加している。中国古代の文献に記述される儀礼を可能な限り踏襲し、現代社会の中で、地元の方々も含め、様々な人々が参画できるかたちで蘇らせようとするこの取り組みを、参加者たちは敬意とともに見守った。また、栗谷国学振興院が有する様々な文化施設やこの祭祀が、数多くの観光客を集め地元の人々の交流の結節点となっていることも、思想や哲学が現代社会において果たす意義を考える上で重要である。

李栗谷の祭祀
午後は原州市へ移動し、中天哲学図書館にて「国際儒学論壇:朱子学の温故知新」を主題とするセッションが行われた。中天哲学図書館は東洋哲学の大家である金忠烈の業績を顕彰し、哲学の大衆化・生活化を目指して建設された図書館である。原州市民のための様々な哲学講座も開催されている。ここでは、李栗谷の理や気に対する理解、朱子学との連続性と差異のほか、朝鮮朝における朱子学の政治思想・制度論との関係、日本・中国思想との比較的検討が議論され、朱子学や栗谷学を東アジア思想史の中に位置づけ直す試みが多く示された。総合討論では、報告者の発表から展開し、朱子学という基盤のもとで生じた地域的多様性と創造性、各国の最新の研究状況について活発な意見交換・情報共有が行われた。

原州市中天哲学図書館
本研討会は、朱子学や栗谷学が現代社会に対して持ちうる倫理的・文化的意義を再考する貴重な機会であった。同時に、韓国の哲学研究に関わる複数の施設を移動しながら、長距離列車やバスの中で長い時間をかけ、中国語だけではなく英語や韓国語でも交流ができたことは、中国や日本の研究者にとって、自身の研究を相対化し、東アジアの思想が持つ新たな可能性について思索をめぐらせる契機となったのではないだろうか。
報告:田中有紀(東洋文化研究所准教授/EAA)