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第7回 学術フロンティア講義
「30年後の世界へ——学問とその“悪”について」

第7講 5月28日 

星野太(総合文化研究科、美学・表象文化論)
「真実の終わり?──21世紀の現代思想史のために」
ポスト・トゥルース(post-truth)という言葉が聞かれるようになって久しい。2016年、イギリスの欧州連合離脱をめぐる国民投票やアメリカ大統領選挙が行なわれたこの年、オックスフォード大学出版局はこれを「2016年の言葉」に選んだ。それによると、ポスト・トゥルースとは「公共の意見を形成するさいに、客観的な事実よりも感情や個人的信念に訴えるほうが影響力のある状況を述べたり、示したりする」言葉であるという。以来、この言葉をめぐってさまざまな研究書や論文が書かれてきたことは周知の通りである。その内容は「ポスト・トゥルースの政治」をめぐる実証的考察から、21世紀になって勃興したソーシャル・メディアとの相関を示す統計的調査までさまざまだが、それらとともに目につく、ある気がかりな言説がある——すなわちそれは、20世紀後半に流行をみせた「フランス現代思想」こそが、今日のポスト・トゥルース状況を準備したというものである。いったいなぜ、そのような言説がまことしやかに広がっているのか。また、その内容ははたして妥当なものであるのか。本講義ではこれらのことについて概説的にお話ししたい。