第1回 石牟礼道子を読む会

2020年6月22日(月)15時より、第1回石牟礼道子を読む会がZoomを用いて開催された。これは、世界文学ユニットの宇野瑞木氏(EAA特任研究員)と報告者の髙山花子(EAA特任研究員)がともに企画したものである。当日は、張政遠氏(東京大学)、鈴木将久氏(東京大学)、前島志保氏(東京大学)、山田悠介氏(大東文化大学)、宮田晃碩氏(東京大学大学院博士課程)、建部良平氏(EAAリサーチ・アシスタント)の計8名が参加した。

このパンデミック下において、過去の災厄に対し、人々がどのように向き合い、考え、また学びを得てきたのか――日中古典文学と説話表象を専門とする宇野氏によって、『方丈記』に描かれる五大災厄への関心を端緒に、世界の災害文学を読んでゆく発案がなされたあと、企画を練り上げるなかで具体的なテクストとして浮かんだのが、石牟礼道子の作品であった。水俣病を主題として書かれた『苦海浄土』をはじめとする彼女の作品を、参加者の専門や関心と繋げながら読むことは、いまここで、「災害」や「疫病」を学ぶための新しい足がかりになるのではないか。また、石牟礼については、近年「世界文学」としても注目が集まっており、インタビュー集をはじめとする貴重なアーカイブ資料も残されている。さらに、石牟礼が熊本方言を中心とする土地の人々の言葉を記す背後には、口承や口伝集への関心がある。合唱曲の作詞や新作能の台本も手がけた石牟礼が、音楽や図画イメージも含めた、いわゆる「小説」以外の文学のかたちを用いて、他者の言葉を伝える姿を追うことは、現代の「世界文学」そのものを考え直すヒントにもなるのではないか、と考えたのである。

石牟礼道子『苦海浄土』 (池澤夏樹=個人編集『世界文学全集』第3集-04、河出書房新社、2011年)の表紙。世界文学として『苦海浄土』三部作が収録されている。(河出書房新社のHPより http://www.kawade.co.jp/np/special/3677774465/)

 

上記のような趣旨のもと、立ち上げミーティングを経て、石牟礼道子のテクストを読み進めてゆく軸を定めて開かれたこの第1回は宇野氏が発表を行った。山田悠介『反復のレトリック――梨木香歩と石牟礼道子と』(水声社、2018)の第4章「石牟礼道子の反復」と、日本古典文学へ環境の視座を導入したハルオ・シラネ『四季の創造:日本文化と自然観の系譜』序論、第四章「田舎の風景――社会的差異と葛藤」(北村結花訳、KADOKAWA、2020。原書は、Haruo Shirane, Japan and the Culture of the Four Seasons: Nature, and the Arts, Columbia University Press, 2012.)を導きの糸として、『苦海浄土』第1部に描かれる他者の言葉を反復するコミュニケーションのありかた、自然の描かれ方や、仏教的なモチーフをめぐって、途中、山田悠介氏による解説も挟みつつ、綿密な発表が行われた。質疑応答の時間が限られたことが惜しまれるが、「聞き書き」の文体や、「人ならざるものとのコミュニケーション」について、質問やコメントが相次ぎ、また、わたしたち自身もまたどのように石牟礼の言葉を繰り返すのかが問われるのではないか、水俣病と災害・疫病は一義的に結びつけられるものではないのではないか、といった課題も浮上した。自分たちのスタンスを絶えず探りながら、今後もテクストに寄り添って読み進めてゆきたい。

報告者:髙山花子(EAA特任研究員)