【活動報告】第4回EAA座談会「テクノロジーの時代における人間の学問」 2020年7月14日(火)

7月14日(火)13時より、第4回EAA座談会「テクノロジーの時代における人間の学問」が駒場キャンパス101号館11号室(EAAセミナー室)とZoomをつなぐ形で開催された。

はじめに司会の中島隆博氏(EAA院長)より、前半の発表者である石井剛氏(EAA副院長)、橋本摂子氏(総合文化研究科准教授)、イザベル・ジロドウ氏(総合文化研究科准教授)、続いて、後半の発表者である羽藤英二氏(工学系研究科教授)、開一夫氏(総合文化研究科教授)、さらにディスカッサントを含めた参加者について紹介がなされた。セミナールームの大きな卓上は透明のパネルで仕切りがなされてはいたものの、会場では久々の再会によって挨拶や雑談が交わされ、打ち解けた雰囲気がZoomを通して伝わってきた。

このような緩やかな雰囲気の中で、まずEAA院長として中島氏から本座談会の趣旨が説明された。昨年度に始動して以来、EAAでは、東アジア教養学、すなわち東アジアから新しい学問を発信するという理念のもと、文理を乗り越えていくことを目指してきた。文化人類学では三点測量ということが唱えられたが、19世紀以来の比較の方法論ではなく、不安定でダイナミックな世界において、互いの地盤を揺るがしながら文理をまたいだ形で試みられる、もうひとつの三点測量が提唱された。その上で、今このパンデミック下において、東京大学からテクノロジー、そして人間という概念自体をどのように考え直すことができるのか、という大きな問いが投げかけられた。

前半のセッションは、石井剛氏の「「江湖」的フロンティアとしての大学を想像する」と題された発表から始められた。石井氏は、ここ数カ月のオンライン授業を体験する中で、それまでわたしたちが、いかにノイズあるいは余剰というものに囲まれていたかということを痛感したという。今後、テクノロジーを最大限に活かしながらも、いかにこの余剰、いうなれば人間らしさの地盤をなすものを確保し学問として高めていくか、が問われていると石井氏は強調した。具体的に提案されたのは、オンラインによって徹底的に国際化を進め、「人間的な共感」の範囲を広げること、またそれと同時に、フィジカル・キャンパスの充実をこれまで以上に図ることであった。駒場キャンパスの前身である一高は「新墾(にいはり)の丘」と呼ばれ、フロンティア精神を育む場とみなされた伝統もある。そこから、石井氏は、中国で秩序ある社会から零れ落ちた人々の集団性を持たない集団を意味する「江湖」というキーワードに結び付け、大学を異なる人間が集まって「impairment」の体験を共有する場にすることの重要性を指摘した。

続いて、橋本摂子氏は、「文/理の境界:事実への視座をめぐって」と題して、主としてハンナ・アーレントを介して「事実」とサイエンスの問題について発表を行った。橋本氏は、まず自身が大学院時代に統計学から理論社会学へと文転したときのことを回想し、文理融合型の学科編成の限界を感じた経験から、文理融合の試みに対し懐疑的な立場を表明した。さらに橋本氏は、アーレントの「複数性plurality」について、アーレントは「人権」の問題を「複数性」の問題として捉え直したのだと主張した。その上で議論されたのは、「事実」とサイエンスの問題である。ここで主張されたのは、「事実」はその産出過程で権力が介入し、改ざんがなされやすい一方で、だからといって「事実」の可能性はいささかも傷つけられるべきではない、という両義性である。また、この「事実」の性質は「データ・サイエンス」の分野と親和性が高いことが確認された。最後に、今回の新型コロナウィルスに関する「事実」の開示をめぐる問題に触れ、文理において共約可能な規範として、「事実」の不可侵性の重視が挙げられるのではないか、と述べた。

前半の最後の発表者であるイザベル・ジロドウ氏は、英語にて「The law-science-technology-society (LSTS) nexus: Turning an academic challenge into a challenging teaching & learning approach」という題で発表された。ジロドウ氏は現代における法とテクノロジーの関係について、自身が法学研究科から総合文化研究科(arts and sciences)へと移り、双方の教育の現場に携わってきた経験も踏まえ、特に教育の問題に焦点化して発表を行った。氏によれば、従来、法学者とロースクールの教員は、法律とテクノロジーに関して、伝統的な知的財産といった話題からバイオテクノロジー法やサイバー法に至るまで、完全に区画化された異なるテーマ領域において取り組んできた。しかし、ここ数年、社会法律研究(Scio-legal studies, SLS)と科学技術社会論(Science technology and society, STS)との間の新しい相乗効果を高めるための試みが推進されることで、法律とテクノロジーへのアプローチが交差するような展開を見せているという。また、ジロドウ氏は「The law-science-technology-society (LSTS)」という学際的な教育フレームワークが学際的に法律を教える上で有効となり得る可能性を強調し、LSTS教育を通じて、学習コミュニティを形成するプラットフォームを構築していく展望を示した。

以上三名の発表が続けてなされ、休憩の後、前半の討議に入った。質疑では、三名の発表がいずれも、大学が新しい時代にどのようにかかわっていくのか、という問いに関わる発表であったことが確認された。また、ここ数年新しい学問領域の編成が進められてきたが、それが今のコロナ禍の状況も含めいかに機能し得ているか、といったことも改めて問われる形となった。

個別の問題としては、「江湖」という人間の在り方を具体的にどのように大学に組み込んでいくことができるのか、といった質問が出た。また、テクノロジーによる「人間的な共感」の範囲の拡大の有効性が期待されると同時に、その「共感」がフィジカルな体験を伴わない「共感」であるということが何を意味するのか、といった議論もなされた。

また文理の意見がかみ合いにくい原因として、「余剰」を認めるか否かという根本的態度の違いがあるのではないか、という興味深い問題提起があった。一方で複雑系と呼ばれるような理系の分野も念頭に置くことにより、新しい次元が開かれている可能性も示唆された。また、「事実」という言葉に対して、その多義牲や問題点が指摘された。これら前半で議論された幾つかのキーワードは、後半の議論にも引き継がれる形となった。

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休憩を挟んでの後半セッションは、羽藤氏の「人はなぜ移動するのか?」というタイトルの発表から始められた。羽藤氏の専門は都市計画であり、人間の移動である。羽藤氏は、東京という都市の特性について、リモートと非リモートの対立ではない中間的な構えもまた必要なのではないかと述べ、2000年以降、情報化が進みリモートによって移動が失われるという見立てが主流になり、PTAの集まりのあとのファミレスでの会話がLINEに代替されるようになった事例も挙げつつ、リアルからリモートへ向かう昨今の流れを整理した。そして、映画『ミッドサマー』を題材に、テクノロジーが都市に介入することとから生じる全体主義の問題を提起した。ディスカッションでは、災害復興計画との関連や、都市計画のために現場を歩く必要性が話題にあがった。また、都市計画において倫理を教える重要性や、なにかに出会うための知の旅をつくってゆくことの意義、近傍概念の再考が提起された。

つづいて開氏の発表「EdTech with Cognitive Science: 未来の学び=AI×認知脳科×IoT?」で提起されたのは、テクノロジーによって現在の教育を変えることはできるのか、という根源的な問いである。認知脳科学を専門とする開氏は、大規模な実証実験の経験にもとづき、とりわけ大学教育の現場での試験や採点において、AIがどのように機能しうるのか、その限界を指摘した上で、わたしたちが人を育てるために、どのような新しい選抜制度や評価制度がありうるのか、問いかけた。ディスカッションでは、PDS(パーソナルデータストア)の事例や、AIによる育児の可能性をめぐる問いが浮上し、それぞれの教育現場で遠隔授業に携わる参加者間できわめて闊達な意見交換がなされた。

討論者の國分功一郎氏(総合文化研究科准教授)、四本裕子氏(総合文化研究科准教授)、星岳雄氏(経済学研究科教授)、佐藤麻貴氏(ヒューマニティーズセンター特任助教)の発言や質問によって、前半の議論が後半でもつなげられていたのが印象的であった。

休憩後の総合討論では、文献学を例に、定義できない部分が残るのではないか、という余剰をめぐる議論のつづきがなされ、記録される以前のモノの存在、パピルスや石板による記録、情報の強度の変化とアクセス可能性などをめぐって最後まで話題は尽きなかった。

報告者の髙山は、セミナー室で運営補助をしていたため、二度の休憩中や、会の終了後に、挨拶をしたり、つづきの話をしたり、情報交換をしたり、Zoom越しではできないコミュニケーションがあることを実感した。誰かが話しているときに、無言で頷きあったり、笑い声が聞こえたりする場面もあった。チャットも活用され、対面とリモートのそれぞれのメリットを活かせた部分もあったように思われるので、安全にいっそう気をつけつつ、このように双方を組み合わせたイベント開催のよりよい形を模索してゆきたい。

報告者:宇野瑞木、髙山花子(EAA特任研究員)