◆ 中島隆博院長(2020.4-)からのメッセージ

東京大学
東アジア藝文書院院長
中島隆博

東京大学東アジア藝文書院の新しい院長として一言申し上げます。

現在、わたしたちは新型コロナウィルスのパンデミックに世界的に直面しています。この数十年のグローバル化によって、世界はより稠密に結びついたため、感染の広がる速度は類を見ないほど速いものとなりました。ちょうど100年前、第一次世界大戦とスペイン風邪が世界を揺るがせました。それは20世紀のグローバル化であり、その後世界は、全体主義と世界的な分断に進んでいきました。
今わたしたちは再び同じ課題を問われています。この100年間の歴史とそれに対する学問的な蓄積を踏まえて、よりよい世界を構想することが求められています。それは、「何ができる」か以上に、「何を望むのか」を明らかにしなければなりません。近代の人間中心主義とは異なる仕方で、人間を再び問い直すことが必要でしょう。また、その人間が生きる社会のあり方も考え直さなければなりません。それは資本主義や科学技術そして社会の諸システムの再点検に繋がるはずです。
その際に、20世紀の「近代の超克」とは違う仕方で考えてみたいと思います。西欧近代には光と影があり、その影がどれだけ深いかはよく知られていますが、光の部分はそれとして批判的に評価しなければなりません。つまり、特殊なものに退行するのではなく、ある種の普遍的なものに自らを開き続けることが重要なのです。無論、前提されるような「普遍」があらかじめあるわけではありません。そうではなく、普遍化し続ける努力こそ求められているのです。
東アジア藝文書院は、北京大学をパートナーとして、オーストラリア国立大学、ソウル国立大学、ニューヨーク大学、ボン大学と連携する、研究と教育のプラットフォームです。それを支えているのは、多くの方々の「望み」です。とりわけダイキン工業の皆さまには、深く広い「望み」を東アジア藝文書院にかけていただいています。あらためまして御礼申し上げます。
こうした「望み」の上に成り立っている東アジア藝文書院は、国際的な連携のもと、上に掲げた問いを洗練していきたいと思います。それには、若い知性が輝くこと以外に道はありません。皆さんと一緒に、思考し続けていけたらと思っています。

 

◆ 羽田正院長(2019.3-2020.3)からのメッセージ

東京大学
東アジア藝文書院院長
羽田正

東京大学東アジア藝文書院は、東京大学と北京大学の研究者が、人文学の将来を考え、建設的な議論を積み重ねた上でできあがった新しい組織です。その目指すところは、日本語の知と中国語の知、それに西洋諸語の知を接続し、人間とその社会の成り立ちや仕組みを説明しうる新たな知の体系を作り出すことです。「藝文書院」という名前は一見伝統的ですが、ここで試みられるのは、きわめて新しくユニークな学問的実験です。19世紀や20世紀には、西洋諸語の知が普遍だと信じられていました。しかし、この考え方は今日では通用しません。西洋諸語が生み出す知とその体系は、世界に数多くあるローカルな知の一つとみるべきです。同じくローカルな知の一つである日本語には、独自の価値や見方、語彙や文脈があり、それらは日本語を話す人々の集団的な経験や常識と相まって知の体系を形成し、彼らの思考や行動の基盤となっています。それは中国語の場合も同様です。日本語や中国語の知は、西洋諸語による知と同様に、世界における文化の多様性を保障する重要な要素なのです。

東アジア藝文書院では、東京大学と北京大学の学生が、熱意溢れる教員の指導の下で互いに切磋琢磨しながら、日本語と中国語の運用能力を高め、それぞれの言葉による知の体系を習得します。授業で主に用いられるのは、国際語としての地位を確立した英語です。そして、教員と学生が一緒になって、日本語と中国語、それに英語に代表される西洋諸語の知を接続、統合し、新たな世界規模の知の体系を作り出すことに取り組みます。

これは気宇壮大な企てです。航海に例えれば、まだ正確な海図はありません。行く手には大海原と嵐が待ち構え、船はそれほど簡単には目的地に到達できないかもしれません。しかし、このプログラムに参加する両大学の教員は真剣です。ぜひ、私たちの新しい船に乗って、一緒に知の冒険の旅に出発しましょう。志を持つ学生の皆さんの参加を待っています。

なお、ダイキン工業の皆さまのご理解と力強いご支援がなければ、このプログラムは実現しませんでした。ここに特に記して、心からの謝意を表します。