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私たちは世界の「悪」にどう立ち向かうか: 東京大学 教養のフロンティア講義

私たちは世界の「悪」にどう立ち向かうか: 東京大学 教養のフロンティア講義

私たちは世界の「悪」にどう立ち向かうか: 東京大学 教養のフロンティア講義』株式会社トランスビューより2022年11月15日に刊行されます。
本書はEAAが2021年度に行った学術フロンティア講義を収録したものです。

 

株式会社トランスビューウェブサイトより

私たちは世界の「悪」にどう立ち向かうか: 東京大学 教養のフロンティア講義

【内容説明】

戦争、原子力、感染症、ポストトゥルース、差別……
人類の知は、不可避的に悪へと転じる。
だが、そこにこそ善への希望がある。

善悪二元論を超えて複雑な現実に対峙するために——
新たな社会的想像力を育む12の講義を収録!

人類の文明や知恵、そして学問は、通常より良い未来を実現するものだと考えられている。しかし、戦争や原発など、私たちは本来「善」を目指すべき知恵が「悪」へと転じる例を数多く知っている。人間の知が不可避的に悪へと転じるのであれば、私たちはどのようにしてそれに立ち向かえばいいのだろうか?

単純な善や正義などない。それでも考え続けることで一筋の希望は見えてくるはずだ。東京大学の新入生に向けて行われたオムニバス講義の書籍化第2弾! 新たな社会的想像力を育み、複雑な現実にメスを入れる12講。

【目次】

第1講 悪をめぐる三つのパラドックス
朝倉友海

未来へ向かうことと悪を避けること/『マクベス』と『老子』をつなぐ、善悪のパラドックス/第一のパラドックス「善は悪である」――カントと形式主義/理性の命令から「天命」へ――孟子をてがかりに/「善は悪である」の進化形?/第二のパラドックス「悪は善である」――ニーチェと系譜学/評価様式そのものを見直してみよう/第三のパラドックス「善悪の等しさ」――仏と悪の不思議な関係/悪の陳腐さと反道徳的シニシズム/歴史は繰り返す――悲劇と茶番について/直観に「賭ける」ことでしか未来は切り開けない

第2講 真実の終わり?――21世紀の現代思想史のために
星野 太

30年後を考えるために、30年前に着目する/ポスト・トゥルースとは何か/ポスト・トゥルースの系譜学/ポストモダニズムの影響?/悪しき相対主義、遠近法主義のイメージ/批判者たちの言い分/アメリカにおける「フレンチ・セオリー」/さしあたりの結語――ポストモダニズムの再検討に向けて

第3講 人種・民族についての悪い理論
鶴見太郎

「人種」や「民族」は存在しない?/新しい概念はどのように広まるのか/「人種」という概念が流通した背景/「民族」という概念が流通した背景/日本における人種と民族
/「人種」への忌避と「民族」の重視/ソ連のユダヤ人は、なぜイスラエルに移住したか
/「ユダヤ人だから」ではない本当の動機/人種・民族についての悪い理論/民族をどのように考えればよいか

第4講 近代日本哲学の光と影
中島隆博

哲学が「役に立ってしまった」時代/大学生を戦争に駆り立てた田辺の講義/個人の根拠に国家を据えた「種の論理」/戦争末期に「懺(ざん)悔(げ)」した田辺/九鬼周造は、なぜ「いき」に着目したのか/「生きる」ことと「偶然性」の関係/現代の哲学にもつながる「世界」の捉え方/九鬼が下した「決断」とは

第5講 私たちの憲法〝無感覚〟――竹内好(よしみ)を手掛かりとして
王 欽

「憲法〝無感覚〟」とはどういうことか/普通の人々が憲法に覚えた違和感/新安保条約締結に反発して辞職した竹内の意図/私たちはどのようにして憲法を自分のものとしていくか/憲法の普遍性はどこにあるか/「方法としてのアジア」を捉えなおす

第6講 清末中国のある思想家の憂鬱
――章炳麟の「進化論」批判
林 少陽

章炳麟が掲げた「アジア主義」/「進化論」の何を批判したのか/善が進化すれば、悪もまた進化する/個人が「近代」から自由になるために/章炳麟の国家観/争いのない世界は訪れるか/章炳麟の議論から110年後の我々はどう考えるべきか

第7講 儒学から考える「悪」――香港そして被災地
張 政遠

「悪」を読み解く四つの視点/「価値問題」としての悪/「人性論」としての悪/「悪搞」としての悪/「原発問題」としての悪

第8講 民主主義という悪の閾
── 「他者なき民主主義」とそのディレンマ
金 杭

「政治における悪」とは何か/1980年代韓国の民主化運動と資本主義化の同時進行/民主化運動と「メシツブ」/藤田省三が指摘した現代の「安楽主義」/カール・シュミットが見抜いた民主主義に潜む排除の論理/南原繁と戦後日本の民主主義/「他者なき民主主義」に歯止めをかけられるか

第9講 地球上の生命と人類は30年後にどうなっているか
太田邦史

「カーボンニュートラル」が見落としていること/地球の生命の歴史/ピンチをチャンスに変えてきた生物/人類は地球にとって「悪」である/人間の移動(モビリティ)が与えた影響/30年後の「良いシナリオ」と「悪いシナリオ」/質疑応答からの抜粋

第10講 未来社会2050―― 学問を問う
佐藤麻貴

未来予測は「誰」がするのか/未来を見据えるためには、過去を見返さなければならない/コンピュータは正確に未来を予測するか/「人口減少が問題」は本当なのか/AIの中では何が行われているか/未来予測とは何か/あるべき未来の姿を考えるシナリオ分析の手法/未来社会を見据えて、学問を問う/学生たちとのやりとり(抜粋)

第11講 知識史からみた学問の「悪」
ミハエル・ハチウス

「学問」とは――知識史という観点から/学問の「善悪」をどのように考えればよいか/近世日本の「儒学的」知識観/「実学」という言葉の意味/明治維新後の「実学」観/むすび

第12講 たたかう「文」の共同体に向けて
石井 剛

「システム的な悪」/「道」の内部から「道」をつくる/悪を克服するためにわたしたちはいかにして「行う」べきか?/政治の悪/人類活動自体の悪/「文」の場としての大学