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2019.12.04

韓国出張報告①:国際学術大会「『沖縄学』は可能なのか——ポスト伊波普猷時代の挑戦と展望」

2019年11月14日(木)から19日(火)までの六日間、EAAからの支援を受けて、報告者(EAA特任研究員・崎濱紗奈)は韓国(水原市・済州特別自治道)に出張した。15日(金)には、慶熙大学にて行われた国際学術大会「『沖縄学』は可能なのか——ポスト伊波普猷時代の挑戦と展望」に参加した。翌16日(土)・17日(日)は、NPO法人Jeju Dark Toursによる済州4.3事件跡地をめぐるダークツアーに参加した。18日(月)は、報告者の友人で教育学研究者の吉田直子氏(東京大学大学院教育学研究科)が主宰するスタディツアーに参加した。以下、国際学術大会については韓国出張報告①、ダークツアー・スタディツアーについては韓国出張報告②として報告する。

この度の出張の目的は、沖縄をめぐる問題と、韓国・済州島をめぐる問題を突き合わせて、比較検討するというものであった。キム・ウネ氏(東京外国語大学国際日本研究センター)、そして吉田直子氏のご尽力によって実現したものである。このお二人なくしては、今回の企画は実現しなかった。沖縄研究に携わる者が一堂に会する(しかも韓国で!)という貴重な機会を作ってくださったお二人に、心からの謝意を表したい。また、ソン・ジヨン氏(慶熙大学グローバル琉球・沖縄研究センター長)、キム・ドンヒョン氏(済州大学校)、チョ・ユミ氏(グローバル琉球・沖縄研究センター)をはじめとする慶熙大学・済州大学校の先生方、友常勉氏(東京外国語大学国際日本研究センター長)のご尽力に、感謝申し上げたい。このほか、大城貞俊氏(作家)は、15日および16日の基調講演の中で、沖縄と済州の経験を繋ぐ貴重な言葉を紡いでくださった。全てについての詳細な報告は、紙幅の関係上叶わないが、全体を通しての考察を以下に報告する。

慶熙大学グローバル琉球・沖縄研究センター長ソン・ジヨン氏による開会のご挨拶

なぜ、沖縄と済州という二つの場所を比較検討するのか。それは、「東アジア」という地域について考える際、この二つの場所が必要不可欠だからである。15日のシンポジウムで、佐藤泉氏(青山学院大学教授)より、次のような発言があった。「東アジアを、単なる地理空間の名称としてではなく、アメリカによって構成されるヘゲモニー空間として考える必要がある」。1945年の日本の敗戦により、植民地支配から解放された朝鮮半島は、息つく間もなく、アメリカとソ連の覇権争いの場となった。済州島で起こった「4.3事件」(報告ブログ②で後述するように、この事件の名称は未だ定まっていない)は、その象徴的な出来事である。沖縄もまた、沖縄戦を経て、アメリカ軍の統治下に置かれ、軍事要塞化が進められた。歴史家の白永瑞氏は、済州や沖縄を、「核心現場」という言葉で表している。「核心現場」とは、「東アジア」における矛盾や歪みが凝集したような場所を指す。済州と沖縄の歴史経験を、同様のものとして並列して語ることは決してできないが、両者ともに、大日本帝国、そしてアメリカという大国(あるいは帝国)の覇権(ヘゲモニー)が、どのようにして「東アジア」と呼ばれる空間を構成してきたのか、そのプロセスを観察する最適な場所であるのだ(白永瑞『共生への道と核心現場——実践課題としての東アジア』法政大学出版局、2016年)。

全体集合写真

白氏が「核心現場」と呼んだ概念は、あるいは「辺境」という概念によっても考えることができるかもしれない。ここで「辺境」とは、単に中央に対する地方、といった地理的な意味ではなく、資本主義的文脈の中で理解される必要がある。すなわち、資本主義システムの内部に包摂されていながら、いわば使い物にならない土地として放置・遺棄される場所のことを指す。経済学者の向井清史氏(『沖縄近代経済史——資本主義の発達と辺境地農業』日本経済評論社、1988年)によって提出されたこの「辺境」概念に依拠しつつ、歴史学者の冨山一郎氏(『近代日本社会と「沖縄人」——「日本人」になるということ』)は、沖縄が置かれた特殊な位置を理解しようと試みた。15日に行われたシンポジウムで報告者は、「伊波普猷という問題——『沖縄』という主体をめぐって」と題し、向井・冨山両氏の研究を踏まえ、近代沖縄を代表する思想家である伊波普猷(1876−1947)が1910年代に展開した議論(発表ではこれを「個性」論と呼んだ)の限界について検討した。資本主義的に構成される辺境としての「沖縄」に対して、別の「個性」を立ち上げようと伊波は試みたものの、それは結果的に、より洗練された統治法(多文化主義的な統治)を先取りしてしまうという限界を内包していたことを指摘した。発表に対して、ナム・サンウク氏(仁川大)、キム・ジェヨン氏(圓光大)より貴重なコメントを頂戴した。頂いたコメントを通して、韓国(および植民地朝鮮)という文脈から伊波普猷を読むという新たな観点に気づかされ、今までにない新鮮な発見を得ることができた。

韓国出張報告②へ続きます。

報告者:崎濱紗奈(EAA特任研究員)