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2020.01.31

【EAA Dialogue】昝涛(ZAN Tao, さん とう)氏×石井剛氏

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2020年1月22日(水)、EAA本郷オフィスにて昝涛(ZAN Tao, さん とう)氏(北京大学歴史学系副教授)と石井剛氏(総合文化研究科教授/EAA副院長)のEAAダイアローグが開催された。昝涛氏は中国においてトルコ研究に携わる代表的な歴史学者である。二時間にわたったこの対談は中国語で行われ、昝氏の出自や学者になった経緯、地域研究のあり方、「東アジア」と「中国」といった概念にまつわる複雑性、さらに研究者キャリアにおける偶然性などが触れられた。
石井氏はまず中国におけるトルコ研究者がわずかしかいないことから、この分野に入ったきっかけについて昝氏の研究者になるまでの道程を尋ねた。昝氏は、著名な文学者莫言(MO Yan, ばく げん)と同じく山東省高密県出身であることや、「改革開放」の光景を目にして外の世界が知りたいと強く思うようになり、北京大学に入学後は歴史学しかも外国史を専攻として日本語を学んだこと、北京に訪れたトルコの学者と出会ってトルコ語を教わったことを語った。なかでも大学三年生の頃、アジア・アフリカ・ラテンアメリカ史専攻に所属した先生の授業をきっかけにトルコに関心を持ちはじめ、大学四年次には第二次世界大戦後のトルコの軍人クーデターについて卒業論文を書いた。大学院に進学後も同じ先生のもとでトルコ研究を続け、「Rewriting of National History in the Early Period of Turkish Republic」を博士論文のテーマにしたという。2005年「South×South」プログラムの援助でついにトルコを訪れ、帰国後チベット大学での一年間の勤務を経て北京大学へ着任した。2012年にアメリカのインディアナ大学に訪問学者として滞在することになり、そこでアラビア語やウズベク語も学んだという。


昝氏の話を受けて、石井氏は大江健三郎や竹内好を例に挙げながら、地域研究における土着性にとどまらぬ現場感覚の重要性を指摘しながら、今後の地域研究のあり方について昝氏に問いかけた。昝氏は、中国の地域研究は功利性が強く、シンクタンクでの勤務を志向する研究者も少なくないという現状に言及しつつ、それが望ましいことではないと批判的に見ている。学部生の段階からシンクタンクを志向するより、むしろ最初は文学・哲学・歴史学・宗教学といった人文系の専門的知識を身につけ、その上で外国語を学ぶべきであって、最終的にシンクタンクに入るかどうかは個人の選択に任せればよい。人文学の基礎がなく、外国語とローカル・ノレッジのみによって行われる功利的な地域研究に深みはないと昝氏はいう。それに関して石井氏も自身の研究的背景を引き合いに出して共感を示した。
対談ではヨーロッパと東アジアにおけるナショナリズムの相違、「中国」と「東アジア」の関係、中国の「多元一体」的な性格も話題になった。石井氏と昝氏は「中国」には東アジア的な性格のみならず内陸アジア的な性格もあるという点で一致した。石井氏は今日のネーション・ステートとしての中国と長い歴史における「帝国」としての中国との齟齬に着目した。それを受けて昝氏は、ネーション・ステートに転身したにもかかわらず、いわゆる「帝国の遺産」は今でもなお大きな存在感を放っているところに、オスマン帝国と中華帝国を比較する可能性と意義があると述べた。
最後に石井氏は一研究者のキャリアにおける偶然性のことを問題にした。つまり、石井によれば、東京大学には数多くの優秀な学部生が在学し、その優秀さはたいてい効率のよさとして表れている。こうした効率重視は結局偶然性の排除につながるが、しかし人生そのものにおいて偶然性の排除は不可能ではないかという。昝氏は、個人のパーソナリティの鍛錬、持続的な学びを通して偶然を必然に変えることを強調し、すべての人に偶然があり、それをどうするかは個々人の人生態度次第だと、本対談を締めくくった。


Umarim ki 中国与日本的”世界史”可以有更多交流和対話
※ “Umarim ki”=トルコ語で”I hope~”

報告者:郭馳洋(EAAリサーチアシスタント)