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2020.09.23

EAA Summer Institute 2020 (Day 1)

2020年9月7日(月)、東京大学駒場キャンパス101号館のEAAセミナー室にて、東京大学と北京大学による2020年度のSummer Institute が開催された。コロナウイルス感染予防に配慮しつつ、北京大学側参加者はオンライン経由で、東京大学側参加者はオンラインないし対面の2方式で参加した。折からの台風10号で不安定な天気ではあったが、今年新入学の学部1年生を含む5名の学生が来場してくれた。これまで当たり前だった対面でのイベント実施が難しい現状の中、今回のような機会は誠に貴重であり、ソーシャルディスタンス対策をとりつつも中島隆博氏(EAA院長)、石井剛氏(EAA副院長)はじめスタッフ一同で喜びを共有した。

互いに簡単な挨拶を行ってオンライン参加者も揃ったところで、まず、中島氏が英語による開幕スピーチを行った。20世紀初期に世界を大きく変えたスペイン風邪の100年後の世界を私たちは生きており、現在私たちは同じような歴史的変化を目撃している。この現状をふまえ中島氏は、今ここで「感染症流行の見聞と経験」をテーマに集まり、議論することの大きな意義を強調した。こうしたグローバルなレベルにおける再構築を、我々はどう生き抜けばよいのか? 諸々の挑戦をどう乗り越えていけば良いのか? 「パンデミック」とは、古代ギリシャ語で「全人類」を意味する”pan(すべての)”+”demos(人々)”に由来する言葉である。中島氏は今回のInstituteを通じ「全ての人」に実り多い議論を行ってもらうことへの期待を語った。

講義の開始に先立って、オンラインの参加者を背後のスクリーンに映し、対面参加者の一同がスクリーンの前でポーズをとる興味深い記念撮影が行われた。続く講義は、欧陽哲生氏(北京大学)と章永楽氏(北京大学)による2講義であった。2人が共にテーマとして選んだのは、近代中国の思想家・梁啓超(1873-1929)の『欧遊心影録』である。スペイン風邪が流行する中、第一次世界大戦がもたらした前代未聞の破壊と殺戮は、それまで自明であった近代ヨーロッパ文明の正義・正当性を強く揺さぶり、中国において、西洋に倣った近代化を支持していた梁啓超も、これにより思想的転換点を迎えることとなった。『欧遊心影録』は、大戦後のヨーロッパにおける彼の見聞と感想を記したものであり、出版後、大きな物議を引き起こすこととなった。東西文明の優劣や社会問題などをめぐる当時の論争は、コロナ危機への対応によって浮き彫りになった中国と欧米諸国の違いをめぐる現代の議論に通じるものがある。欧陽氏は、梁啓超の思想転換や微妙な立場について、学生達に詳しい歴史的解説を行った。続いて章氏は、梁啓超の経験をもとに戦後の世界秩序の再構築について論じた。科学主義と倫理の関係や、古代中国に由来する「天下」の世界観などについての検討は、コロナ前の我々の「常識」を問い直すような刺激的なものだった。

中国語・英語が交差する高密度な講義は、若い学生達にとって大きな刺激ではあったろうが、試練でもあったろう。10分ほどの休憩時間、EAAのスタッフは学生達を2階の控え室に案内し、飲み物とお茶菓子で短い雑談を楽しんだ。

第3の講義は、王欽氏(EAA特任講師)による「啓蒙」をテーマとするものだった。今回のコロナウイルスの被害を著しく蒙ったイタリア。そのイタリアが生み出した当代随一の哲学者ジョルジョ・アガンベン(Giorgio Agamben)による一連のコロナウイルス評論を紹介し、動物とは一線を画すはずの人間の「生のあり方」を問うた。感染による生物的な死に脅かされ、自由をいとも簡単に手放す人は、果たして何なのだろうか? ホッブス、カール・シュミット、ジュディス・バトラーなど、近代から現代に至る多彩な議論を交差させ、王氏は聴衆の思考を促した。

全ての講義が終了した後、学生達による自由な質問と討論が行われた。民主主義とナチズムを比較するアガンベンのショッキングな発言を皮切りに、人間の「生き方」についてさらに掘り下げて対話を行い、現在の私たちが置かれている状況についての議論がなされた。インターネットにしがみついている人々は、自分たちの一挙一動をデジタルに記録している限り、自由からはほど遠いのである。

翌日は、東京大学と北京大学の参加者が5グループに分かれ、協力してそれぞれプレゼンテーションを行った(DAY2の報告はこちらをご覧ください)。相当タフな日程ではあったが、体は遠く離れていながらも同じ課題をともに思考する作業は、この時期においては貴重な経験となったはずである。

報告者:張 瀛子(EAAリサーチ・アシスタント)