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2020.09.23

EAA Summer Institute 2020 (Day 2)

Summer Institute 2020 Day 1についてはこちらをご覧ください。

2020年9月8日(火)のInstitute第2日目は、参加学生によるプレゼンテーションが行われた。参加者が日本と中国の隔たった場所にいるうえ、日本側も対面式とオンライン参加の2方式を併用していたことから、各グループのディスカッションは、初日レクチャー後、各チームごとにオンラインで連絡をとりあって準備をすることになった。当日は、20名の参加者が5つのグループに分かれ、パンデミック時代の見聞とその感想について、初日の講義と関連させて発表した。

1つ目のグループは「ディスタンスとは何か」について議論を行った。ハイデガーによると、ディスタンスとは人間がそこから抜け出そうとした時にこそ成り立つものである。これを踏まえると、現在のソーシャル・ディスタンスや梁啓超のヨーロッパ経験、アガンベンの言う緊急事態も乗り越えなければいけないディスタンスとなる。今回のSummer Instituteで体験したような、具体的アピアランス(出席)とプレゼンス(存在)の分離が可能となりうる状況は、今後のディスタンスを克服するためのヒントになりうるかもしれない。それをふまえると、手段としての知識・学問はどのような役割を担うことができるのか、という問題が提起された。コメントでは、ディスタンスに対する個人的経験の重要性、また知識に対する理解がわれわれの連帯の形に大きく影響することが指摘された。

2つ目のグループは、コロナの後の世界の展望をめぐって発表した。このチームは新型コロナウイルスにまつわる各種議論における「何なのか(What is it)」よりも「どうなるべきか(What should it be)」へ注目するとし、現在の国境封鎖によってもたらされた従来の国際秩序の危機を、いかに回復していくかを問題として取り上げた。プレゼンテーションでは中国の趙汀陽氏(Zhao Tingyang)が提唱している「天下システム」に言及がなされ、そのモデルがはらむ中国中心と「無外」の危険性にふれつつも、可能性のある解決策として注目するとの論が展開された。プレゼンテーション後の講評では「天下システム」の可能性とは別に、その現実性について考える必要があると指摘がなされた。

3つ目のグループ以降は、期せずして、個人の体験を語る内容がメインとなった。詳細は省くが、以下、それぞれのグループのテーマについて紹介する。

3つ目のグループのテーマはコロナ時代への反抗としてサイバー旅行紀行を披露した。日本と中国の政府の対策、個人の体験を挙げて、大きな時代の変動の捉え方について各自の考えを述べた。プレゼンテーション後の講評では、自分の経験はときに事実より未来のために役に立つとのコメントがなされた。

4つ目のグループは中国の厳しい都市封鎖、日本の緩い対策、そしてアメリカでさらに浮き彫りとなった党派対立(partisanship)を取り上げた。本グループのメンバーは全員オンライン参加で、討論もかなり苦労しであろうこのグループのように、今後オンラインでのコミュニケーションをどう活かすべきかが問われていくであろう。

5つ目のグループは、コロナ時代の技術をテーマにした。グループのメンバーからはSNSやビデオ通話があっても、一人暮らしの時間が辛く厳しいものであるという意見が挙がった。コロナ対策は技術と密接不可分のものであり、そこからは技術による全体主義の危惧が徐々に現実のものとなっているといっても過言ではない。これをふまえ、コロナ対策やライフスタイル、人間のコミュニケーションにおいて技術をどう利用していけば良いのかという問題が提起された。プレゼンテーション後の講評では、技術による媒介手段の変化は常に行われるものとの指摘がなされた。そして重要なのは、その表象を通して問題の本質をつかむ能力を培うこと、そして個人の経験に基づいて着実に思考することである、という。

全てのプレゼンテーション終了後、教授陣から全体に対しての講評がなされ、2020年Summer Instituteは幕を閉じた。報告者個人の経験では、EAAでの対面での仕事は2月のEAA特別セミナー「わたしたちの三十年後――世界と学問」以来であった。その半年余りの時間は「自分のための時間」ではあると同時に、やはり他人と隔離されている状態でもあった。Zoomやほかのプラットフォームでも授業と会話はできるが、それは音声のみ、あるいは画面だけを通して行われるものであり、人を感じ取るにはまだ不十分だと感じている。そうした中で、今回は久しぶりに人の顔を直接見て会話をすることができたのが楽しかった。コロナは未曾有の「ディスタンス」をわれわれにもたらしたが、それを乗り越えるすべての努力は未来の糧になると切に願っている。

         報告者:胡藤(EAAリサーチ・アシスタント)