2020年10月16日から17日にかけて、台南市の国立成功大学文学院にて「東アジア儒学の近代的転換」と題するシンポジウムが開催された。「成功」とは、明代末期から清代初期に活躍した鄭成功に因んだ名称である。明王朝に忠誠を尽くして、清が政権を樹立したあとにも南明政権を支えると共に、オランダ統治下の台湾を攻略し、かの地に漢人政権を打ち立てた人物だ。近松門左衛門の人形浄瑠璃『国性爺合戦』の「国性爺」とは鄭成功その人であり、母が日本人であったこともおそらくは関係して、江戸時代には歌舞伎としても上演されて人気を博した。鄭成功がオランダ東インド会社が支配する台湾島を攻撃して最初に上陸したのが、現在、成功大学がある台南であった。成功大学は日本植民統治時代の1931年に台南高等工業学校として創立され、中華民国に復帰したあとには国立(当初は台湾省立)の工業専科学校として歴史を歩んだが、1956年に成功大学と名称を改めるとともに総合大学化され、今日に至っている。
成功人文講座は、東アジア人文学コミュニティの相互交流を目的とするプラットフォームとして今回初めて開催されたものだという。ホームページの紹介によると、4年後の2024年にはオランダ人によって台南に初めて街が造られて400周年を迎えるとのことで、東アジアと西洋との複雑な歴史の結節点としての当地から人文学を問うことを目指しているのだそうだ。会議に集まったのは、台湾から楊儒賓氏(国立清華大学)、林遠澤氏(国立政治大学)、藍弘岳氏(中央研究院)、香港から馮耀明氏(現在は東海大学)、中国大陸から賀照田氏(中国社会科学院)、そして日本からわたしの合計6名、世代と分野を超えてぜいたくなメンバーがそろった。わたしは残念ながら、賀氏と共にオンラインによる参加である。会議のようすについては、YouTubeにてすべて公開されているのでご関心のある方にはぜひのぞいてみてほしい。
2日間たっぷりのプログラムでは、発表者1名あたり110分の時間が与えられたほか、ラウンドテーブル・ディスカッションにも90分の時間が割かれたが、閉会式に至ってもまだ議論が続き、参加者の一人ひとりに尽きせぬ余韻を残しながら終会するという、実に熱い会議であった。その背景には当然のことながら、人文学という優れて実践的な学問の、肌をジリジリと焦がすような熱が作用していたことは言うまでもない。その焼けるような切迫感は同時に学問に志す人びとの共感に基礎を与える。それを感じた瞬間、オンラインの阻隔は乗り越えられたとわたしは信じている。
報告:石井剛(EAA副院長)