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2024.04.02

【報告】「弱小民族與小國:思想文化與歷史可能性 」工作坊(International Workshop on Small Nations, States and Collectivities: Intellectual and Historical Possibilities)

2024年3月22日(金)13:20より、中央研究院台湾史研究所会議室802にて、International Workshop on Small Nations, States and Collectivities: Intellectual and Historical Possibilitiesが開催された。これは、伊達聖伸氏(東京大学)がジャン゠フランソワ・ラニエル氏と共編したA New Approach to Global Studies from the Perspective of Small Nations(Routledge, 2023)の刊行に連動したイベントである。

これまで東京大学グローバル・スタディーズ・イニシアティヴ(GSI)では、多くの場合、自明とされている大国の観点ではなく、日本、香港、沖縄、ケベックといった小国の観点から国際秩序を問い直し、新たな普遍を見出そうとしてきた。そしてEAAも共催するかたちでこれまでいくつものイベントが行われてきた。そのひとつの成果を中央研究院の台湾史研究所が受け止め、今回のワークショップが企画された経緯がある。東京大学側からは、伊達氏にくわえ、上記の新刊に寄稿している張政遠氏(東京大学)、田中浩喜氏(東京大学人文社会系研究科博士課程)が発表者として参加した。また報告者の髙山もチェアマンとして参加した。

呉叡人氏(中央研究院)による開会挨拶のあと、第1パネルでは、梅森直之氏(早稲田大学)の司会のもと、まず伊達氏が”Japan, a Small Nation Feigning to be Something Greater in East Asian Context”と題して、大国化を志向する小国として日本をとらえる観点を紹介し、大江健三郎や鶴見俊輔に依拠して、広島や、沖縄、台湾、ケベックにまで小国論が展開する視座をしめした。呉氏からは、大小が強弱とどう対応するのか、国家権力は具体的には軍事と経済に関わるのか、大国になりたい精神性の根源にあるものはなんなのか、戦後民主主義をめぐる論者を引き合いに問われ、同じ小国でも帝政ないし王政の廃止の有無が差異となるのではないかといったコメントがなされた。つづいて田中氏が”Imagining a Small Nation in an Empire: Kōtoku Shūsui and his ‘small-nationalism “と題し、幸徳秋水の「小日本」のアイディアの変遷と、それに影響をあたえた中江兆民、孟子、ルソーが確認された。梅森氏からは、一般に進歩主義と結ばれる社会主義が、小国主義のような性格につながる視点の意義が確認されたうえで、晩年の幸徳秋水のアナキズムとの関連について、現在進行形の問題として捉えた上で、質問がなされた。最後、張氏は、”Philosophy in Hong Kong after 1949”と題し、香港に哲学はあるのか、香港の哲学はあるのかと、第二次世界大戦後に中国から亡命して香港で活躍した2人の哲学者、唐君毅と労思光の実情にもとづいて問いかけをした。コメンテイターで、2021年1月に香港から台湾に来た陳祖為氏(中央研究院)からは、現在の香港の状況と重ねて、香港について書いた哲学はあるのかと問いが変奏され、香港の植民地化経験と、中国文化からの独立可能性と、いまなおある影響について応答がなされた。

第2パネルでは髙山の司会のもと、吳叡人氏が”A Tale of Three Islands— Recent developments of nationalism in Okinawa, Taiwan and Hong Kong”と題して、沖縄と台湾と香港という異なる地域において、いかに2010年代から2020年代にナショナリズムが変化したのか比較され、現在の国際秩序における、三地域の軍事防衛の可能性にも議論が及んだ。陳偉智氏(中央研究院)は”Gandhi in Taiwan: A moment for Colonial Internationalism in the Interwar Taiwan”と題して、1920年代の台湾においてもガンジーが反植民地運動を象徴していた地平について、小国論に引きつけて歴史的文脈を整理した。最後、顧恒湛氏は「未竟的主體:戰後初期臺灣 原住民族政治菁英的追尋與頓挫」と題して、二・二八事件以後、原住民族の指導者が台湾の政治に関わってゆくプロセスで、民族や居住地区の名称が積極的に変化したことが指摘された。呉氏に対しては伊達氏から行政レヴェルと民間レヴェルのナショナリズムの差異といった事柄について質問がなされた。陳氏に対しては許時嘉氏(山形大学)から、弱小民族としての意識が内面化され、日中以外の時空間に接続され、台湾人としての主体性があらわれた特異性が指摘された。顧氏に対しては、詹素娟氏(中央研究院)より、原住民族のエリートのアイデンティティは外から与えられた側面があり、そして弱者が政治的領域以外で抵抗する可能性について、歴史性と空間性をめぐって補遺がなされた。

限られた時間で驚くほど数々の論点が提起され、これらを起点に議論を継続し、さらに今度は、「小国」だけでなく「大国」を再考することもまた可能になったと実感する有意義なワークショップであった。あたたかく歓迎してくれた呉先生をはじめとする中央研究院の方々に心から感謝したい。

報告・写真:髙山花子(EAA特任助教)