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2023.05.12

【報告】「新しい啓蒙のための連携研究機構」創設のための連続講演会——マルクス・ガブリエル氏講演 「新しい啓蒙のために」

202358日(月)、「新しい啓蒙のための連携研究機構」創設のための連続講演会(第2回)が、伊藤国際学術センターにて開かれた。マルクス・ガブリエル氏(ボン大学教授)は「新しい啓蒙のために」と題して講演を行った。その内容は、ドイツ・ハンブルクにあるThe New Instituteを拠点にして展開してきた「新しい啓蒙」プロジェクトについて、その背景、理念と今日的活動が中心であった。

前例のない環境危機や、世界規模の不穏に直面している今日の私たちにとって、ヨーロッパ中心の啓蒙主義の弁証法を超えた「新しい啓蒙」が要請されている。The New Instituteの設立は、その試みの一つである。そこでは、学際的な協力が、学問、政治、ビジネス、テクノロジー、メディア、アートなどの分野にまたがり、①21世紀の人間の条件、②社会的・経済的な変革、そして③デモクラシーの未来、といったテーマを中心に行われている。ウォーバーグ・アンサンブル(Warburg Ensemble)と呼ばれている19 世紀のタウンハウスで、世界各地の学者がともに生活しながら研究生活をおくる体制も整っている。その一環として、マルクス・ガブリエル氏はCenter for Science and Thought (CST) を紹介した。CSTとは、哲学と自然科学の接点を創りながら、今日の危機的状況に対処するために設計されたプラットフォームである。そこで、研究者は、デジタル技術と人工知能にも焦点を当てながら、哲学とともに科学知の限界に向き合い、より良い共創を目指している。

 

ディスカッションでは、来場者から多岐にわたる質問がなされた。自分野にとっての緊急課題に取り組むことは常に精一杯となっている中、果たして時間をかけて各分野と「融合」することが可能か。欧米は素晴らしい思想を生み出してきたものの、依然として深刻な人種・差別問題が指摘されている中、「新しい啓蒙」は現実的な問題解決にどのように貢献しうるか。The New Institute自体が膨大な資本をもとに作られた組織である中、資本主義の限界とそれによってもたらされた危機を変えることはいかに可能なのか。様々な質問に対して、緊急事態だからこそ「本当の問題とは何か」を多分野の知見を踏まえて見据えなければならないこと、実践者の問題意識を踏まえた上の哲学、そして資本の使い道を含めた変革などの視点から、マルクス・ガブリエル氏は応答を行った。こうした対話を通した悩みと知見の共有が、「新しい啓蒙」をめぐる各分野・各国の実践に関わる人々を勇気付けるような化学反応をもたらしている。


報告者:汪牧耘(EAA特任研究員)

写真撮影:野久保雅嗣(東洋文化研究所)