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2022.12.01

【報告】第16回東アジア仏典講読会

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2022年10月22日(土)14時より、第16回東アジア仏典講読会を開催した。今回は石井公成氏(駒澤大学名誉教授)をお招きし、「コンピュータを活用した禅宗研究法」と題して、N-gramを活用した研究法をご講義いただいた。

 

 

N-gramは、任意の文字数でテキストを分割し、その文字列の総数を自動的に計算・処理する手法である。石井氏はこれまで国文学・仏教学で活用されてきた経緯を振り返ったうえで、N-gramによって複数文献を効率良く比較分析する方法――テキストエディタで正規表現を用いて検索する、Excelに流し込み表にまとめて比較する等――をご教示くださった。それに加え具体的な例として、禅宗初祖とされる菩提達摩の系統に属する最古の禅籍『二入四行論長巻子』を、初期禅宗で重視されていたと伝えられる『四巻楞伽』、および菩提達摩に敵対したと伝えられる菩提流支の所訳『十巻楞伽』と比較し、『四巻楞伽』と共通する文言が多いこと、および伝説に反して『十巻楞伽』とも共通箇所が見られることなどを指摘された。さらに石井氏は分析結果の重要例を順次メモに保存していき、関連するものごとをグループに分け、それを組み合わせて論文にまとめるまでの流れを、ご自身の執筆経験に照らしながらご紹介くださった。

その後、検索する場合のテキストの量、用いるべきデータベース、フォルダの整理方法などについて様々な質問がなされ、それぞれ丁寧にご回答、ご教示いただいた。

通常の文献会読とは異なり、今回の内容はテキスト比較のための具体的な技術に関するものであり、普段とは違う啓発を受けた。もちろん石井氏も講義で注意された通り、機械的な比較処理だけで全ての問題が解決するわけではなく、使う側の知識と問題意識が必要となるが、典拠を明示せずに先行文献の文句を利用することが多い中国の仏典を読むうえで、N-gramによる総当たりの比較分析をかけることは、意外な影響関係を明らかにするうえでも、またそれを踏まえて読みの精度を高めるうえでも、ともに有効だろう。今後の禅宗研究に広く活用されることが期待される。

 

報告者:柳 幹康(東洋文化研究所)