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2025.09.11

【報告】国際シンポジウム「山水:行動する世界観」

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2025年9月6日、7日、わたしは中国の浙江省は杭州市にある中国美術学院で大型の国際シンポジウム「山水:行動する世界観 Shanshui: A Worldview in Action」に参加してきました。近年来、中国では「山水」をテーマにした学際的な研究が急速に進んでいることにはわたしも気づいており、潮田総合学芸知イニシアティヴ(UIA)の発足時からずっと関心を寄せてきました。このシンポジウムはそのムーヴメントを中核で担う人たちによって開催された大型企画です。企画者の一人でわたしに参加を促してくれた北京大学の渠敬東さんとは、2022年11月にオンライン講演会をお願いして以来、年を追って交流を深めています。山水画が中国美術を代表する絵画様式であることは言うまでもありませんし、同時にそれは文人伝統に深く結びついている点では社会芸術でもあり、したがってまた、竹内好流に言えば「文学」そのものでもあります。山水は批判的美学の尖鋭的な実験であり実践であり続けてきたのだとわたしは思います。いや、というよりも今回のシンポジウム参加を通じて、そのことを再び強く認識したといったほうがよいでしょう。

総勢50名を超える発表者が集まる巨大会議でしたが、渠敬東さんのみならず、つい先日も福島にご一緒した孫向晨さん、ハーヴァード・イェンチン研究所の同期だった魏斌さんなど顔見知りの研究者も多く、楽しい数日間となりました。

中国美術学院は芸術系の大学として北京の中央美術学院と並ぶトップ大学です。ここで教える先生から聞いて初めて知ったのですが、晩年のスティグレールが数年間この大学で教えていたのだそうです。今回のシンポジウムは、インターメディアアート学部(School of Intermedia Art)が主催し、その高世強(Gao Shiqiang)さんが中心となって制作した作品の展覧会とセットで行われました(新媒体影像装置芸術展 Shanshui Moving Image Installation Art Exhibition)。会議の合間をぬってわたしたち参加者は説明を受けながら展示を見て回る機会を得ました。大小さまざまな液晶画面を使って投影される「動く山水」の作品群にはただただ圧倒されるばかりでした。

これは長い歴史の中で育まれてきた中国の文化の性質を根幹から変更するものであるかもしれませんし、もしかすると、その長い歴史もまたある種のインスタレーション芸術なのかもしれません。そのように思わせるような宇宙的スケールが、この展覧会だけではなく、シンポジウムの発表の中からも滲み出てきました。そうであるならば、この芸術の根底にあるのはある種のニヒリズムだということになりますが、しかしそれはニヒリズムそのものではありません。この数日間、わたしは紹興と杭州という二つの場所にいて——これらの場所が辛亥革命期思想の研究から始めたわたしの研究者としてのキャリアにとって最も重要であることを強く認識したのでしたが——、魯迅が引用したハンガリー詩人ペテーフィのことばに、またしても眩惑され続けていたのでした。「絶望の虚妄なること、正に希望に同じい」。

この境地においてでなければ、中国の文明を論じることはおそらくできないでしょうし、この境地において思考することは、2050年とその先に向かって生きていくわたしたち人類にとって何よりも大切な心持ちであるかもしれないと改めて思わざるを得ません。

石井剛(EAA院長/総合文化研究科)