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2022.03.16

【報告】人文社会科学系組織連絡会議共同シンポジウム「人文社会科学の構想力」

202239日、人文社会科学系組織連絡会議共同シンポジウム「人文社会科学の構想力」が開催された。本シンポジウムは東京大学において近年相次いで発足した、人文社会科学に関係する新たな教育・研究組織から成る「人文社会科学系組織連絡会議」によって企画された。

ヒューマニティーズセンター20177月設立)、東京カレッジ20192月設立)、東アジア藝文書院20193月設立)、現代日本研究センター20207月設立)、アジア研究図書館20184月設立)、以上5つの組織からそれぞれ齋藤希史氏(ヒューマニティーズセンター機構長)、ハチウス・ミハエル氏(国際高等研究所東京カレッジ准教授)、石井剛氏(東アジア藝文書院副院長)、白波瀬佐和子氏(現代日本研究センター長)、河原弥生氏(アジア研究図書館准教授)が登壇した。モデレーターとして佐藤岩夫氏(東京大学執行役・副学長)、司会としてケネス・盛・マッケルウェイン氏(社会科学研究所教授)、さらには第2部のディスカッションには太田邦史氏(東京大学執行役・副学長)、佐藤健二氏(東京大学執行役・副学長)がパネリストとして参加した。また、開会・閉会の挨拶はそれぞれ藤井輝夫氏(東京大学総長)、齊藤延人氏(東京大学理事・副学長)から頂戴した。

    
左から:齋藤希史氏、ハチウス・ミハエル氏、石井剛氏、白波瀬佐和子氏、河原弥生

  
左から:佐藤岩夫氏、ケネス・盛・マッケルウェイン氏、太田邦史氏、佐藤健二氏


左から:藤井輝夫氏、齊藤延人氏

本シンポジウムを通してあらためて確認されたのは、「人文社会科学」と呼ばれる領域の研究・教育活動を振興する重要性である。いわゆる「理系」と比較した際に、社会に対する還元度・貢献度が見えづらいという理由から、昨今「文系」とりわけ「人文社会科学」に対する風当たりが強くなっていることは周知の通りである。しかし、地球規模で刻一刻と進展する諸問題(気候変動、経済格差、紛争・戦争等々)に対応するためには、いわゆる理系/文系という二分法によってはもはや対応が不可能である。近代の幕開けに「博物学」が誕生したのは偶然ではない。今の時代に必要とされているのは、細分化された知を再統合する「総合知」の構想である。

この度のシンポジウムは、上記のような構想を実現するべく、これまで「人文社会科学」の中で培われてきた潜勢力を言語化する作業であったと言えよう。その中で浮かび上がってきたのは「言語」そして「翻訳」というキーワードである。「人文社会科学」とは、何をおいても第一に「言語」を扱い、「言語」によって世界を記述する学問態度である。それは、複雑化してもはや全体像など捉えることが不可能な現状をなんとか解きほぐそうとする格闘の一環として行われる試みである。こうした試みを皆で共有するために必要なのが「翻訳」という行為である。これは、単にある言語から別の外国語への翻訳を意味するものではない。そうではなく、「翻訳」は異なる認識態度の間に行われるべきものである。複雑な世界を理解しようとする方法は、当然、一つではなく無数に存在するし、存在するべきである。「人文社会科学」と呼ばれる方法は、そのうちの一つに過ぎない(「自然科学」と呼ばれる方法もまた然りである)。したがって、「総合知」を構想するために必要なのは、そのいずれが優れている(役に立つ)かを議論することではなく、異なる認識態度が各々の蓄積を相互に翻訳し合うことである。

まだ緒に就いたばかりのこの構想が今後花開くためには長い年月を必要とするだろう。しかし、例えば100年後(100年とは決して遠い未来ではなく、近い未来として想定すべきものだろう)、東京大学が世界水準の学府として存在するためには、必要な道のりであるはずだ。

報告者:崎濱紗奈(EAA特任研究員)