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2025.05.19

【報告】第43回東アジア仏典講読会

2025年419日(土)14時より、第43回東アジア仏典講読会がハイブリッド形式にて開催された。今回は佐久間祐惟氏(東京大学助教)と張超氏(PSL研究大学フランス高等研究実習院専任副研究員)が発表を行い、小川隆氏(駒澤大学教授)が張氏の発表の通訳を担当した。当日は対面で14名、オンラインで延べ23名が参加した。

佐久間氏は、本講読会において数回にわたり検討を続けている虎関師錬著『正修論』のうち、「資度」章における禅波羅蜜の後半および般若波羅蜜の部分、さらに「工夫」章の前半に対する訳注内容を発表した。佐久間氏は、日本中世を代表する禅僧である虎関師錬を研究対象としている。師錬は、日本初の総合的仏教史書『元亨釈書』の編者として、また五山文学を代表する存在として注目されてきたが、禅僧としての思想については十分な研究がなされておらず、佐久間氏はその点に着目し、検討を進めている。

『正修論』は師錬晩年の著作であり、彼の禅思想をうかがい知ることのできる代表的な文献の一つである。今回講読が行われた「資度」章は、禅門においても六波羅蜜の実践が必要であることを説く内容であり、「工夫」章は禅宗における「工夫」(修行)の概要を述べた章である。本文の詳細については、現在出版準備中の内容であるため、省略する。佐久間氏の発表に対しては、本講読会のスタイルに則り、文字一つ一つの解釈から章全体の内容理解に至るまで、活発な議論が交わされた。

張氏は、前回に引き続き、彼女のフランス語著書 Notes au fil du pinceau dans le bouddhisme Chan (XIIe-XIVe siècle)(中國禪門隨筆研究(十二至十四世紀))の第四章の一節、すなわち皇帝や士大夫などの外護がない場合の対応事例について紹介した。

仏教や禅宗に対して関心や好意を持つ者は、士人階層の主流とは言い難く、六朝以来、エリート政治家や儒者による排仏論が絶えなかった。曉瑩編録の『雲臥紀譚』などの記録を通じて、北宋期の僧侶たちが権力者から迫害を受けた事例およびそれへの対応の様相が明らかにされた。

特に印象的であったのは、そうした抑圧に対抗するうえで、僧侶たちの機知に富んだ口才が重要な役割を果たした点である。自身を見下す地方官に対して、ユーモアを交えた応答で雰囲気を一変させたり、卓越した弁舌によって官吏を感服させ、僧団への待遇を好転させたりした事例が紹介された。曉瑩がこのような記録を残したことにより、当該文献が宋代禅僧にとって、地方官からの非難にいかに対処し、どのように支持を得るかという点に関する一種の教材として機能したという張氏の解釈には説得力があり、参加者の共感を得ていた。宋代の仏教がいかに社会と交わっていたかを垣間見ることのできる、有意義な発表であった。

 

報告者:宋東奎(EAAリサーチ・アシスタント)