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2021.02.23

EAAオンライン・ワークショップ「コロナ危機と規制・財政政策」

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2021215日、EAAオンライン・ワークショップ「コロナ危機と規制・財政政策」が開催された。EAAでは若手研究者の研究交流を積極的に支援しており、2020年度にはコロナ危機と未来社会に関わる意思決定過程を中心に検討してきた(「コロナ危機と医療・介護政策」を参照、関連するテーマで「コロナ危機と自民党政権」も開催)。今回は第三弾として早川有紀氏(関西学院大学准教授)と田中雅子氏(東京大学特任助教)をお招きし、変異ウィルスが確認される中、不確実性を一層高める今般のコロナ危機において、規制政策と財政政策のあり方を探り、今後をともに展望する機会をもった。

まず、早川氏はコロナ危機を受けて先進諸国で行われてきた都市封鎖や休業命令のような経済活動への介入やワクチンのような医薬品への許可・承認など、命令・禁止・許可を伴う規制政策に注目を払い、こうした規制政策の決定が不確実性の高い状況の中で行われることを問題提起した。日本でも飲食店の営業短縮など経済活動への自粛要請、市民に対する行動変容への協力要請がとられ、規制的措置の決定をめぐる議論が活発になっている。

早川氏は、新型コロナウイルス感染症に対する日本政府の規制政策過程を検討する際に、現在のパンデミックが(本イベントのタイトルからもわかるように)「危機」として受け止められているために、「危機管理( crisis management)」と「リスク管理(risk management)」の観点からのアプローチが肝心であると指摘する。興味深いのは一般に両者が混在して使われているのに対して、早川氏はそれを分離し、事前・事後といった時間軸を持って連続的に捉えることが重要であると主張した。つまり、クライシスが発生しないように予防と抑止といった事前の対策をリスク管理とし、クライシスが発生し、緊急事態への対処やその復旧・復興といった事後の対策を危機管理として区分し、お互いが影響を及ぼしあう循環性を重視する。こうした区分が重要なのは、危機前後によって政府が採る対応と政策手段が異なるからである、と早川氏は説明する。こうした枠組みをもって、早川氏はコロナ危機の中での経済活動に対する規制と医薬品関連の規制を事例とし、今回の規制政策にはリスク管理の側面で多々な課題を残しているとした。

続けて、田中氏によるコロナ危機と財政政策についての報告がなされた。コロナ危機下でも見られたように、経済活動への規制はそれに応じた業者への給付金など、財政出動を伴う。田中氏は、こうした危機を受けての財政出動が政党政治とどのような関係があるのか、換言すれば、危機に直面した政党間競争が、対決型となるのか、それとも協調型となるのか、それを導く条件は何であるのか、そして、政党政治の危機対応に何らかの法則性を見出すことができるのかを問いかけた。それを検証するために、田中氏は日本における近年の危機と対応を通時比較し、諸外国との共時比較も行う。

まず、危機を目前として、ときには対決型に、ときには協調型になる政党間競争の条件を規定するものとして、政治的基盤の強弱と衆議院総選挙の遠近の二軸から検討する。1990年代以降の主な4つの危機(1997年金融危機、2008年リーマンショック、2011年東日本大震災、2020-1年コロナ危機)を分析した結果、次の傾向を導きだす。まず、政権基盤が強い場合で、選挙が近い時には野党が政権を批判し対決型に、選挙が遠い時には野党が妥協し協調型になる。反対に政権基盤が弱い場合で、選挙が近いときには野党が代案を持って対決型に、選挙が遠い時にはは与党が妥協し協調型になるパターンが見られると、田中氏は説明する。こうした政党間競争の結果、実行された日本の財政出動は、すでに悪化の一途をたどる日本の財政赤字に、さらなる悪影響をもたらしている。田中氏は、コロナ危機に直面して行われた財政政策を国際比較し、日本は先進諸国の平均より高い水準の財政支出を行いながら、財源確保の努力がなされていないと指摘する。

以上の議論をまとめながら、田中氏は、危機を受けて行われる財政出動の政党間競争のパターンを理解することを通じて、今後の危機対応への手掛かりを見出すことを期待すると述べた。政党間競争のなかに財源をめぐる議論が欠けていて「財政民主主義」が損なわれている点や、未来世代に直結する問題として、現在の政策決定過程の中に、例えば30年後の未来世代の立場から発言する人を入れる「フューチャー・デザイン」の試みがもつ可能性についても取り上げられ、危機をめぐる政策の多面性が浮き彫りになる印象深い報告となった。

 

両氏の報告後には残り短い時間であったが、参加者からの質問で活発な議論ができた。リスク管理の中で産業育成の現状やリスク・アナリシスにおけるリスク評価の問題、財政政策決定過程に影響を及ぼす他の変数、財政出動で恩恵を受ける範囲(特殊企業か一般市民か)と政党政治の関係などが、さらに取り上げられ、充実した、密度の高い議論が繰りひろげられた。このコロナ危機と意思決定過程をめぐるこれまでの議論は、今後EAAブックレット『コロナ危機と未来社会』にまとめる予定である。未曾有のコロナ危機の中、若手研究者がそれぞれの専門性を持ち寄って集い、活発に議論を行ったことは、後世に残す意義ある試みであったと秘かに期待するものである。

 

報告:具裕珍(EAA特任助教)