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2021.01.26

ヒューム『自然宗教をめぐる対話』(1779) 新訳刊行記念WS
「18世紀の対話篇を読む/論じる/翻訳する」

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2020年12月16日、ヒューム『自然宗教をめぐる対話』(1779年)の新訳刊行を記念して、オンライン・ワークショップ「18世紀の対話篇を読む/論じる/翻訳する」が開かれた。EAA特任研究員の若澤佑典が企画運営を行い、政治思想史分野より訳者の犬塚元氏(法政大学法学部教授)、社会思想史分野より壽里竜氏(慶應義塾大学経済学部教授)が登壇した。事前準備および当日の進行に際して、武田将明氏、伊野恭子氏、田村正資氏の助力を得た。感謝申し上げる。本イベントの目的は、「本書がとにかく面白い対話篇なので、その魅力を縦横無尽に語ってみたい!」というシンプルなものである。ヒュームの知的探求は認識論や倫理学に始まり、政治学や文芸論など、幅広い主題を領域横断的にカヴァーしている。また、文筆家としての活躍が示すように、「何を論じるか」だけでなく「どう語るか」という点でも、卓越したものがある。18世紀の読者たちは、ヒュームが書くエッセイや歴史書の語りに魅了されていた。こうした背景から、現代の研究者が多領域で協働して、あるいはアカデミアの外部も巻き込んで一緒に論じることで、見えてくるヒュームの世界がある。今回はとりわけ、人文学諸領域と社会科学諸領域の接点を意識しながら、三人のヒューム研究者が集い、『対話』についての対話を行った。

本イベントは開催前日に、事前登録者数が149人に達し、当日の来場者も100人を超える大盛況であった。ウェビナー形式のオンライン開催ということで、登壇者とオーディエンスのやり取りはテクストベースであったものの、閉会ギリギリまで英文学・哲学・政治理論・経済思想史など、さまざまな分野からの質問が飛び交い、熱気に満ちた二時間となった。学部学生(しかも東大に限定されない)の方で、イベント参加をしてくれた方も複数見られた。思っていた以上に、ヒューム研究の未来は明るく広がっているのかもしれない。運営スタッフも、登壇者の三人も多方面からの反響に驚きつつ、「ヒュームってとても面白い!自分の興味関心とは接点がない思っている人にこそ、本書を手に取ってほしい」というメッセージが響いたようで安堵している。

ワークショップの進行に関しては、まず企画者の若澤が趣旨説明を行い、英文学研究から『対話』へのアプローチを論じた。続いて、犬塚氏が政治思想史の観点から、そして壽里氏が社会思想史の観点から本書を論じ、鼎談へと移った。三者の立ち位置は異なるものの、①対話篇というジャンルの内的多様性を強調し、「対話の美化/理想化」に警鐘を鳴らす点、②『対話』内で各思想的立場が(コミカルに)キャラクター化されていることへの注目、③『対話』冒頭に置かれた「パンフィルスよりヘルミップスへ」の機能を検討する点、④登場人物の一人であるデメアの退出を取り上げる点など、複数のポイントでオーバーラップが見られた。『対話』についての対話を行う中で、登壇者三人のキャラクター性も浮き彫りになり、あたかも三人がフィロやクレアンテス、デメアのようにワイワイやり取りしているように感じられる一時であった。

 若澤佑典(EAA特任研究員)