2023年1月21日(土)14時より、第19回東アジア仏典講読会をオンラインにて開催した。今回は前回に続き土屋太祐氏(新潟大学准教授)と小川隆氏(駒澤大学教授)による『宗門十規論』と『宗門武庫』の講読がなされた。
『宗門十規論』は第四章の後半、および第五章を会読した。第四章後半では、拠るべき正しい見解を持たぬまま、見よう見まねの空虚なパフォーマンスに堕す当時の禅僧が批判されている。続く第五章では、理(本質)と事(現象)の双方に通じるべきことが説かれる。それによれば事は理に拠り、理は事によって明かされ、両者を円融させることが重要である。もしそれが出来ないのであれば、自分はもとより他者を救うこともできないという。
『宗門武庫』は第8段、真浄克文(1025-1102)と瑯琊永起(生没年不詳)の逸話を会読した。真浄が瑯琊に立ち寄った際、そこの修行僧たちに請われて法を説き、諸方の禅師の誤謬を痛烈に批判した。説法を終えた真浄は瑯琊の顔を見ると、「あなたもおられたか。大したことを言わずにおいて良かった」と言った。すると瑯琊は「おぬしも相当なものだ」と言い、両者顔を見合わせ大笑いし別れたという。その意について本文は何も明かさないが、小川氏は次のような可能性――真浄は明言こそしないものの、その批判対象には瑯瑘も含まれており、琅邪もそのことに気づいたが、双方ともに決定的な対決を避け穏便に済ませたであろうこと――を指摘された。
今回の会読資料にも難解な部分があったが、それぞれ異なる観点から意見を出し合うことで、お互いに理解を深めることができた。一字一句を忽せにすることなく議論を重ねながら読み進める会読形式は、傍からみればいかにも迂遠に見えるかもしれないが、それによってしか得られぬ妙味があるものと思う。
報告者:柳 幹康(東洋文化研究所)