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2023.04.25

【報告】第10回 藝文学研究会

2023年4月20日、第10回の藝文学研究会が開催された。関西学院大学教授の山泰幸氏は、中島隆博氏の“Human Co-becoming”という言葉と響き合うかたちで、「まちづくりの現場から考える“Human Co-designing”」を題とした講演を行った。

山氏は、多様な分野や地域の知見を自由闊達に往来してきた研究者だといえる。構造主義への関心をもとに民俗学・人類学に取り組み、さらに知識人論や日本思想についても独自な見解を示してきた。一方で、人々の生と学問の知の狭間にある「研究」という営みに対する思惑も少なからずあった。「フィールドワークで得たデータをもとに、自分の関心のためにだけ論文を書く」ことへの後ろめたさは、まちづくりの実践へ踏み出した大きなモチベーションでもあったという。2013年のフランス留学をきっかけに、山氏は「哲学カフェ」に出会った。それがまちづくりに役立つと直感し、帰国後はその方法を徳島県・東みよし町を中心とする地域開発の実践に活かそうと試みてきた。2023年3月は、東みよし町の哲学カフェが30回目の開催を迎えた。

異なる性質・性格を持つ地域社会を「過疎地域」と一括りすることは、私たちの視点を単一化してしまう。「外部者」として、地域が抱えている問題を先入観から推し付けるのではなく、それを「可聴化」するための場作りが重要である。また、地域に「ないもの」ばかりに目を向けるのではなく、「あるもの」が湧き上がる出口を開くことも、まちづくりの醍醐味である。地域の内外にまたがって、情報・資金・知識・人材を調達する「媒介的知識人」との協働はその例である。このように、地域に住んでいる・生きているという実感を持ちながら、多声的空間の中で共に未来を築いていることは、 “Human Co-designing”だといえよう。こうした試みは、たとえ直ちに行政的な成長目標の達成にならなくても、それに関わる人々に充実感を与えているに違いない。後者こそが、真の「地域開発」と呼びたいものである。

山氏の講演を聞き、多くの気づきがあった。確かに膨大な開発課題に対応するために、知識や論理性を前提とする議論は欠かせない。しかし、開発の日常的な側面も見逃してはいけない。住民の日々に活力を吹き込むためには、「哲学カフェ」のように、自分の考えや悩みを安心して吐露できる場の存在が大切である。山氏の実践に窺えるように、「触変」のきっかけを増やすことによる「自然発生的な開発」は非常に興味深い。これがどのようにしたら、従来の明確な因果関係を求める「計画的な開発」の盲点を克服し、さらに地域に新しい展開をもたらすことができるかが、注目すべき点である。今後の活動にも期待したい。

報告者:汪牧耘(EAA特任研究員)