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2022.05.27

【報告】第1回 藝文学研究会

2022526日、「藝文学研究会」の第1回研究会が開催された。本研究会は、今年度より新たに開始したプロジェクト「潮田総合学芸知イニシアティヴ(UIA)」を推進するための研究会である(研究会主旨はこちら)。EAAが発足以来掲げてきた「東アジアから新しいリベラルアーツを発信する」という目標は、細分化された知の在り方を見直すことを通して、分断された思考や身体を、これまでにはあり得なかったような方法で再統合することによって可能となるだろう。本研究会は「研究会」という看板を掲げてはいるものの、新しいアイディアの創発を促すべく、畏まった場ではなく、誰もが安心して発言できるような“サロン”とも言うべき言論空間の創出を企図するものである。今回は潮田洋一郎氏(EAA名誉フェロー)はじめ藝文学ユニットのメンバーのほか、EAA内外から参加者が集った。

対面会場(東洋文化研究所)の様子。左から中島隆博氏(EAA院長)、柳幹康氏(東洋文化研究所)、田中有紀氏(東洋文化研究所)、汪牧耘氏(EAA特任研究員)、塚本麿充氏(東洋文化研究所)

1回は柳幹康氏(東洋文化研究所)が、「中国における禅宗の成立と展開——変容する生のあり方としての実践論」というタイトルのもと発題を行った。そこで紹介されたのは、「禅宗」という思想・実践が、きわめてハイブリッドな形で展開してきた来歴であった。インド古来の修行法であるdhyāna (jāna)を音写した概念である「禅」は、当初は超常的な神通力を可能にするための実践であると考えられていた。しかし、道家の思想・実践と結びつくことにより、神通力に対する解釈は、超常的なものから日常的なもの——例えば空腹を感じれば食事をし、眠気を覚えれば睡眠をとる、といったように——へと変容する。これに対して儒家からは、そのような解釈は度を過ぎた放縦を生む、という批判が投げかけられた。このように「禅宗」は、併存する他のディスコースとの緊張関係において成立してきた背景を持っている。

オンライン参加の石井剛氏(EAA副院長)もディスカッションに加わった

ディスカッションでは、集団的な実践を重視する禅宗の在り方に焦点が当てられた。古くはサンガ(sagha)に端を発するように、仏教は、常に他者、それも複数の他者とともに在ることを実践の根幹に据えてきた。ありのままを肯定し、今・ここを生きるという思想は、他者と共にあって初めて実践可能となる。だがここには、他者と共に在るにもかかわらず、他者に働きかけるという作為を理論化できない、というアポリアも胚胎している。これは、「慈悲」をどのように定義づけるのかという究極的な問いや、禅宗あるいは宗教集団につきまとうある種のエリーティズムにも関わる難問である。

紙幅の都合上、全てを書き記すことができないことが残念だが、他にもエキサイティングな問いが多々提示された。今回提示された問いが、次回以降どのように変奏されるのか、期待したい。

 

報告者:崎濱紗奈(EAA特任助教)