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2023.05.09

【報告】2023 Sセメスター 第4回学術フロンティア講義

2023428日(金)、学術フロンティア講義 「30年後の世界へ」の第3講「時間をあたえあうタンザニアの零細商人の贈与論」が行われた。講演者の小川さやか氏(立命館大学教授)のお話を聞いて、「俺のカネは、銀行ではなく友人のところにある」というタンザニアの零細商人の言うセリフが印象的だ。このセリフの背景には、ビジネス環境の不安定と社会保障制度の不足により、人々が経済資本より、社会関係資本を蓄積する生存戦略があると考えられる。小川氏によると、個人が「借り」を持つ人間の形で「貯蓄」し、そして「借り」を持つ人間の中から、その時々で必要な金銭や財、情報、能力を引き出す。小川氏が言及したマルセル・モースは、『贈与論』で似たような仕組みを「霊」を使って説明している。つまり、個人が贈与を通じて自らの霊の一部を人々に与え、その霊の一部が何かしらの形で返ってくるというものだ。タンザニアの零細商人たちは、このような贈与に伴う互酬の関係が、必ずしも「返ってくる」とは限らないことを想定しているが、「天国」や「来世」、マルチスピーシーズまで想定されているかどうかについては、機会があれば小川先生に伺いたいと思う。

 

報告者:銭俊華(EAAリサーチ・アシスタント)

リアクション・ペーパーからの抜粋
(1)商品経済の中で、あらゆる価値は単一のスケーラビリティのもとに数値化され予測・計算可能なものになっています。しかしながら、講義でお話された具体例のように、たとえば「かつて与えられた時間やチャンス」は「800ドル」という単一の貨幣価値には落とし込めないものであり、他人の不確実性に賭けようという思いが商品経済の倫理に付随して確かに存在していると感じます。ネオリベラリズムの駆動する力によって見えずらくなっていながらも、タンザニアで見られた分人的な経済のあり方は、間違いなくわたしたちの日々の暮らしの倫理とも地続きなものであるだろうとも考えます。互いに人間性という資本をとり結びながら人生を分かち合うという想像力が、商品経済の中でも(部分的にであれ)かき消されずに光を当てられ続けるような方向性が模索されていってほしいと感じました。 (教養学部・4年以上)

(2)インフォーマルな経済の不確定性は、優しさを生み出すと同時に、不安定さゆえに罪や不正が宙ぶらりんになりうる。そうした危うさをなくすために生まれたのが近代的な司法や経済のあり方だとしたら、我々は今、ただ単にインフォーマルな経済を全面的に受け入れるだけでなく、現在の公的な秩序のあり方では回収できない部分を補うためにそれを取り入れていくべきなのではないだろうか。(教養学部・3年)