ブログ
2021.04.08

藤木成彦氏インタビュー:「藤木文書」調査へ向けて

4月6日(火)、一高プロジェクトでは、新緑の駒場キャンパスにて、故藤木邦彦氏のご子息であられる藤木成彦氏をお迎えする機会を得た。お父様の遺された一高時代の留学生関連資料である「藤木文書」についてインタビューをさせていただくためであったが、成彦氏がお父様のご遺品と初めて対面される場に立ち会わせていただく形ともなった。

留学生から藤木邦彦氏に宛てられた手紙を読まれる藤木成彦氏

昼過ぎに正門で待ち合わせをし、まず101号館エントランスのパネル展示にお連れした。成彦氏は、終戦の年に疎開先の熊本でお生まれになり、6歳のころ父・邦彦氏のいる東京に出てこられ、二年間ほど一高同窓会館にお住まいだったのだという。当時のことを思い出されたご様子で、かつての「一高前駅」などの風景を熱心にご覧になっていた。

101号館エントランスの展示をご覧になる成彦氏

 

その後、101号館内のEAAセミナールームにて、2時間ほどインタビューが行われた。聞き手は、「藤木文書」の整理にあたった報告者(宇野瑞木)及び高原智史氏(EAAリサーチ・アシスタント)を中心に、一高映像プロジェクトの髙山花子氏(EAA特任助教)、崎濱紗奈氏(EAA特任研究員)、そして台湾に関する研究者である前野清太郎氏(EAA特任助教)であった。新型コロナ対策として、消毒、換気、加湿に留意し、マスク装着の上、距離を保った形で行われた。

101号館のEAAセミナールームでのインタビュー風景

 

「藤木文書」とは、現在、駒場博物館に所蔵されている未整理の一高時代の留学生関連資料である。2019年の春、EAAで整理・リスト作成を請け負うこととなり、駒場博物館の折茂克哉氏の指導のもと、高原氏と二人で作業にあたった。その結果、この留学生関連資料が、19423年から45年頃まで一高の留学生課長であった藤木邦彦氏の所持品であることが判明した。そこで藤木邦彦氏の古い住所宛てにお手紙を出してみたところ、邦彦氏ご夫妻は亡くなられていたが、たいへん幸運なことに、同じマンションに住んでおられたご子息・藤木成彦氏が受け取られた。このような経緯により、全体のリストが完成したその冬に、成彦様のご厚意により駒場博物館にご寄贈いただける運びとなったのである。

 

今回は、まず成彦さんにご遺品を直接手にとっていただき、私たちと顔合わせをできればというイメージでいたが、想定していた質問事項への応答にとどまらず、その場で思い出された貴重な証言や興味深いエピソードもいくつもお話しくださった。印象的であったのは、藤木邦彦氏のお人柄であった。特に、同期の友人に対しても必ず敬語を使われていたというほど、丁寧に話される方であったことである。これは上から人に対することをしない思慮深いお人柄をよく物語るエピソードと思われた。一方で東大の国史の大学院生の頃、研究仲間と京都の古刹に調査に行かれた際、その古刹の屋根に上ったことが、一番面白かったと語られていたということも楽しく素朴なお人柄をうかがわせる。成彦さんは、お父様のことをリベラルというかヒューマンな人だったとおっしゃったのも印象的であった。

インタビュー中の藤木成彦氏

温厚な性格で、大きな声で主張したり、組織をまとめ上げたりするタイプではなかったが、人の話を聞くことに長けており、難しい人間関係や状況に対処する任務の担当になることが多かったという(戦後も大学内における安保反対の学生運動対策の担当になったということである)。家の中ではあまり仕事の話をされなかったようであるが、没後15年もしてから再び追悼特集が組まれるほど(『史聚』41号、20083月)、後輩や生徒から慕われ、生前静かに語った言葉がそれぞれに深い影響を与えた。

戦後も留学生のご自宅への訪問が度々有り、なかにはご夫婦でいらっしゃった方もいた。お土産は碑文の拓本が多かったそうである。こちらはいかにも歴史家らしいと感じられるが、その他にも色彩鮮やかな中国絵画やパイナップルなど持ってこられた方もいたのを子供ながらに記憶しているという。そのうちの一人には、成彦氏が仕事の関係で台湾に行かれた際に、電話で連絡を取ってお会いすることができた。その方は成彦氏に、戦時下の日本で差別を受けることもあったが、藤木先生はいつでも留学生の見方であった、と語ってくれたということである。

 

また、邦彦氏は退職されてから、ご自身の家系の歴史を和紙に墨書でまとめることをなさった。その名も『加茂藤成記』である。この度、成彦さんのご厚意で、その貴重な和綴じの美しい本をお持ちいただき、拝見することができた。姓氏調査の基本図書『尊卑文脈』の如き系図を含む実に本格的なもので、家系に関する歴史叙述部分の細かい推敲の跡からも、根からの歴史家らしい性格が偲ばれた。

『加茂藤成記』を見せてくださる成彦氏

 

私たちは全くのインタビューの素人で、このような場を持つことも初めてであったが、成彦氏は誠実に向き合ってくださり、私たちの質問したい内容のさらに先を汲み取って、一生懸命思い出しながら興味深いお話をしてくださった。2時間ほどのインタビューであったが、かつて特設高等科の教室であった場で、藤木邦彦氏にまつわる当時を物語る生の資料とともにご子息の成彦さんのお話を聞くという忘れられない時間を過ごすことになった。このインタビューの内容については、いずれ何らかの形で整理して公開できればと思う。

改めて、このコロナ禍の中にもかかわらず、101号館までお越しいただき、貴重なお話をしてくださった成彦氏に、心より感謝申し上げたい。

101号館の前で記念撮影(右から髙山花子氏、藤木成彦氏、宇野瑞木、高原智史氏) 

 

報告者:宇野瑞木(EAA特任研究員)

    撮影:崎濱紗奈(EAA特任研究員)