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2022.01.25

映像制作メモランダム(11)

昨年の初秋より、駒場を舞台にした『籠城』という作品に、声の出演者の一人として参加しています。教養学部に進学した私は、本郷に移ることなく、4年間を駒場で過ごしてきました。『籠城』制作への参加を通して、思い出の多くあるこの駒場キャンパスに、あらためて深く関わることができました。卒業を前にした4年生の秋学期に、このような巡り合わせがあったことをとても嬉しく思っています。

 

 

『籠城』の制作過程で特に印象的なのは、1号館と101号館、そして駒場博物館を繋ぐ地下道に入ったことです。10月の終わり、ある重要なシーンの撮影が地下道でありました。地下道は埃っぽく、1号館と101号館の間に位置する、小さな広場のようなスペースに行くと、突然の来訪者に驚いた鼠が、大急ぎで壁に開いた穴のなかに潜りこんで行きました。水道管や電気系統の配線の点検に施設管理者の方が入る以外は、地下道には誰も立ち入らないそうです。その日は気持ちのいい秋晴れでしたが、地下道は肌寒く、何人かで一度上着を取りに戻りました。

実は、駒場に地下道があるということは、1年生の頃から知っていました。地下道への入口を探して、友達と1号館を探検したこともあります。入口は見つけましたが、扉は南京錠で施錠されており、入ることはできませんでした。しかし、以後も、駒場に人知れず広がる地下道の存在はずっと気になっていました。地下というのは不思議な場所です。文学作品では、非常に重要な役割を果たすことがあります(村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』では、主人公は井戸の底に潜ります)。今回、念願かなって地下道に入ることができました。驚いたのは、地下道は1号館と101号館、駒場博物館を繋ぐだけでなく、さらに銀杏並木の下にまで続いていたことです。銀杏並木の下には水道管が通った細く長い地下道があり、8号館や7号館、5号館といった銀杏並木沿いの建物を繋いでいました。

駒場にある教養学部には、文科系、理科系どちらの学科もあり、各学科内でも専攻はバラバラ、専門とする領域は様々です。ですが、駒場キャンパスには不思議な一体感があります。これは、各学部が独立して存在している本郷にはないものです。このような一体感の形成には、もしかしたら地下道の存在が関係しているのかもしれません。地下という意識の一つ下層の、無意識の領域において、ひょっとしたら駒場に居る人々は何かを共有しているのかもしれません。少なくとも駒場の建物は地下道で繋がっていました。撮影のために地下に降りた日、目の前に広がる地下道を見ながら、このようなことを考えていました。

 

 10月の初め、初秋の頃より『籠城』制作に参加してから、駒場キャンパスの美しさに、あらためて気づきました。まだ晩夏のような汗ばむ陽気だったのが、次第に銀杏並木が黄色く色づき、やがて落葉もなくなり冬が訪れる様子を、つぶさに眺めていました。今回、4年間を過ごしたこの駒場キャンパスを、映像として記録する『籠城』という作品に参加できたことを、とても嬉しく思います。数年後、数十年後に作品を見返したときに、自分が学生時代に考えていたこと、感じていた駒場の匂い、質感、肌触りがよみがえってくるはずです。『籠城』の完成は3月を予定しています。とても待ち遠しく思います。

 

 

報告者:金城恒(教養学部教養学科地域文化研究分科アジア・日本コース4年)