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2023.04.03

文運日新 07: 離任にあたって――片岡真伊さん

この度、二年間を過ごした東京大学東アジア藝文書院(EAA)を離れることになった。私がEAAの研究員に着任したのは、コロナ禍で一年以上都市封鎖が続いたロンドンから帰国した後のことで、それから第一期の最後の一年、第二期の最初の一年とお世話になった。着任した当初はリモートでのイベント開催が多かったものの、この一年でEAAは、徐々に対面の場を取り戻しつつある。イベント以外の場でも、ゲスト・スピーカーの先生方やEAAメンバーと研究について言葉を交わす機会も増え、EAAの知的刺激に満ちた空間がいかに自身の視野を広げ、探究の原動力になり得るかを再確認できた一年でもあった。

異分野の研究者と交流し、共通の問いを各々の専門分野から検討する機会には様々なものがあるが、EAAの魅力は、ただ単に異分野の研究者・学生が集うのみならず、東アジアから新しいリベラルアーツの構築を目指す研究・教育プログラムであるという、他には類を見ないその特殊な環境にあると思う。「部屋と空間プロジェクト」研究会やシリーズ講演・討論「東洋美学の生成と進行」をはじめ、EAAで開催される多岐にわたるテーマの研究会・ワークショップ・講演会への参加を通じて、自分の研究課題ばかりをみつめているだけでは決して足を踏みいれることのなかった領域に触手を伸ばし、異分野の一次情報に接することの喜びを知ることができた。分野・人・言語により異なるさまざまな思考のあり方に触れた経験は、今後、学際的な研究活動を展開する際に、大きな糧となるに違いない。また、「東アジアから問う越境の方法」、「いま、大江健三郎をめぐって」、「批評と大衆」などのシンポジウムは、自分自身の研究課題・関心をさらに押し広げ、より広い視野でそれらを捉え直す、またとない機会となった。

EAAが日本語・英語・中国語を使用言語に据えるトライリンガルプログラムであることも、これまで私が使用言語としてきた英語・日本語の二言語のみでは知り得ない視野を与えてくれた。EAAワークショップ English and Academiaを通して、日・中・英やその他の複数の言語環境で日々を過ごす研究者や学生と言葉を交わすことにより、英語・日本語の二言語を往還するだけでは経験し得ない言語風景を知ることができた。イベントの企画・運営・登壇のみならず、英文の校閲作業を通して、EAAユースの瑞々しい感性・知性に触れたことも刺激となった。今、振り返ると、EAAでの経験一つひとつが、今後の進むべき方向性を模索し、この先の未来を思い描いてゆく際の拠り所となったように思う。

これからは自身の専門分野の研究に専念することになるわけだが、専門領域に閉じ籠もることなく、EAAを通して実感した他者との出会いがもたらし得る可能性を忘れずに、貪欲に旅を続けていきたい。その過程において、EAAを経由地点の一つにできたことは私にとって大きな宝となった。このような充実した学びの時間を過ごし、学究人生をより豊かなものにする様々な経験を積む機会を与えてくださった中島先生、石井先生をはじめEAAの先生方・関係者の皆さまに改めて感謝したい。二年間、大変お世話になりました。