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2023.07.14

【報告】2023 Sセメスター 第12回学術フロンティア講義

2023年77日(金)、東京大学准教授の齋藤幸平氏が「空気が商品になるとき——炭素税、CCS、ジオエンジニアリング」というテーマで講義を行った。講義中、齋藤氏は「空気の価値化」の問題点を指摘し、今年度の学術フロンティア講義(「空気はいかに価値化されるべきか」という設問を前提としている)に批判的な視点を提供した。経済学的アプローチや資本主義、市場経済などの既存の概念やシステムは、現在の気候変動に引き起こされた危機に対応できないのである。その理由は、炭素税や排出権取引、カーボンオフセットなど、「空気に値札をつける」方法が自然や生態系の価値を市場価値で測定する一方で、測定できない別の価値や市場経済によって低く評価される部分が存在するからである。さらに重要なのは、資本主義に基づくこれらの方法は、環境を破壊したグローバルノースが、気候変動の危機を背負っているグローバルサウスへの搾取を拡大してしまうことである。カーボンオフセットによってノースがサウスの土地を買い占める「炭素植民地」の可能性がまさにその一例である。気候変動に対処するために、資本主義以外の道を模索する必要性を齋藤氏が提示した。

 

報告者:銭俊華(EAAリサーチ・アシスタント)

 

リアクション・ペーパーからの抜粋
(1)「空気の価値化」というテーマが与えられた時点で、いかに価値化するかという問題が検討の俎上に上り、価値化それ自体の課題は焦点の外に行ってしまうし、実際、一連の講義はそういった志向をもつものであったように認識している。このような状況が、いうまでもなく資本主義競争のなかにあるダイキンの資金提供のもとで生じていることに問題はないであろうか。あるいは、穿った見方かもしれないが、ダイキンの専門領域に近いテーマを設定すること自体は産学共創の魅力的なあり方であると思いつつ、そもそも、ダイキンにとって望ましく、予定調和的な「空気の価値化」という題目で講義を設定することは、わざわざ資金提供を行う意義があるのであろうか。ダイキンにとって耳の痛いような、「不調和な」テーマ設定を設けることにこそ、産学共創、いや産学協奏を行う上で重要でないのかと考えた。今回は、そのような問いを与えてくれるような講義であった。(教養学部・3年)

(2)長期的には大量消費文化に対する文化戦争を仕掛けるとして、短期的な緊急回避策は何であるべきか?既存のシステムの中で合意が取れるものから実行に移していく他にないだろう。炭素税の逆進性はその税収を affordable alternative への助成金とすることで(たとえば火力電力への課税を用いて再エネ電力の価格を下げるなど)十分に低減可能である。環境負荷の大きい分野に攻撃的な介入をするだけでは支持を得にくいが、それらの分野のビジネスの green な分野への転換・進出を奨励する政策とともにパッケージすれば合意を取り付けやすくなるだろう。また、緑の市場が大きくなるとカーボンオフセットや BECCS のような有効性が怪しいビジネスも出現することになるが、これらが不必要に大きな注目・支持を受けないようにするのは(他のありとあらゆる産業分野における似非科学の問題と同様に)行政と科学者コミュニティの責務であろう。(工学部・3年)